The Funk Brothersが支えたモータウン・サウンドの全貌 — 影の立役者と名曲の舞台裏
概要 — The Funk Brothersとは何者か
The Funk Brothers(ザ・ファンク・ブラザーズ)は、1960年代から70年代にかけてモータウン(Motown Records)のヒット曲のほとんどを支えたデトロイト出身のスタジオ・ミュージシャン集団です。レーベルの「ヒッツヴィル・U.S.A.」で多数のセッションに参加し、無数のチャート・ヒットを生み出したにもかかわらず、当時はクレジットされないことが多く、その存在は長く一般には知られていませんでした。後年、ドキュメンタリー『Standing in the Shadows of Motown』などを通じて広く注目を浴び、モータウン・サウンドの生みの親として再評価されています。
歴史的背景と活動の流れ
1959年頃からモータウンが本格的にシングル制作を量産するようになると、レーベル内に固定したリズム隊とアレンジのノウハウが確立されていきました。The Funk Brothersはレコード制作の心臓部となり、歌手やソングライターが変わっても一定の“モータウンらしさ”を支える存在として機能しました。1960年代中盤から後半にかけてモータウンが全米を席巻する中で、彼らの演奏は数え切れないほどのヒット曲の基盤となりました。
代表的メンバー(主要人物)
- James Jamerson(ベース) — 緻密でメロディックなベースラインはモータウン・サウンドの象徴。指弾きと複雑な同期フレーズで曲を牽引した。
- Benny Benjamin / Richard "Pistol" Allen(ドラム) — Bennyは初期の主要ドラマー、Richardはその後を担った重要なビートメーカー。堅実なグルーヴとグルーヴの微妙な揺らぎ(ポケット)を生み出した。
- Earl Van Dyke / Joe Hunter / Johnny Griffith(キーボード) — ピアノやオルガンでリズムとコードの色付けを行い、曲の土台を作った。
- Robert White / Eddie Willis / Joe Messina(ギター) — リズム/装飾的なカッティングやリフで楽曲にアクセントをつけた。
- Jack Ashford / Eddie "Bongo" Brown(パーカッション) — タンバリンやゴング、パーカッション類でビートのキャラクターを作り出した。
- Mike Terry(バリトン・サックス)ほかホーン奏者 — 太いホーンラインは多くの曲に強い印象を残した。
サウンドの核 — 彼らが作った「モータウン・サウンド」
The Funk Brothersが作り出した音の特徴は、バンド全体の「グルーヴ感(ポケット)」にあります。いくつかの要素を挙げると:
- メロディックで動きのあるベースライン(Jamersonの影響)によるベース主体のドライヴ感。
- タンバリン等の高域パーカッションを強調したバックビートの明快さ。
- シンプルで押しの強い四つ打ちのリズムと、ドラムのスネア/キックの明確な分離。
- ギターやキーボードのカッティングによるリズムの切れ味。
- ホーンやストリングスを効果的に配置するアレンジ(しばしば別録り)で曲のドラマ性を高める。
これらが組み合わさることで、シンプルながらも耳に残る「歌もの」の土台が生まれ、シンガーの声とメロディがより強く際立つ構造ができあがっていました。
レコーディングでの役割と制作プロセス
The Funk Brothersは単なる“伴奏”を超えて、楽曲のアレンジ面でも重大な貢献をしていました。多くの場合、リズム隊がライブで一体感を出しながらベーシック・トラックを録音し、その後ホーンやストリングス、ボーカルやコーラスのオーバーダブを行うという工程がとられました。即興的なフレーズやリフがヒット曲の象徴的なモチーフになることも多く、スタジオでの柔軟な提案力と演奏技術の高さが要求されました。
代表曲・名盤(彼らが支えた主な作品)
- 「My Girl」– The Temptations(1964) — モータウンの代表的バラード。リズムとベースの支えが曲の温度感を作る。
- 「I Heard It Through the Grapevine」– Marvin Gaye(1968) — 重厚なベースと緊張感あるグルーヴが印象的。
- 「Dancing in the Street」– Martha and the Vandellas(1964) — ダンサブルなビートとホーンの躍動。
- 「Stop! In the Name of Love」「You Can't Hurry Love」– The Supremes(多数) — ポップなリズムと洗練されたアレンジ。
- 「Ain't Too Proud to Beg」– The Temptations(1966) — 力強いリズムセクションが楽曲を牽引。
- サウンドトラック:『Standing in the Shadows of Motown』(1999/2002の関連アルバム) — ドキュメンタリーとその再評価を促した音源集。
※上記は彼らが直接演奏した多数のヒット曲のごく一部です。モータウンの主要ヒットの多くはFunk Brothersの演奏によって支えられていました。
魅力(なぜ今も人々を惹きつけるのか)
- 職人技としての演奏力 — 歌を最大限に活かすための控えめで的確なプレイ。過剰にならず、必要なところに確実に色を添えるセンス。
- 即興性とアンサンブル力 — セッション中の微妙な呼吸合わせで生まれるグルーヴは、単なる譜面通りの演奏では出せない魅力を持つ。
- 普遍性のある“ポップ感” — 黒人音楽のソウルに根ざしつつ、ポップスとして広く受け入れられるバランス感覚。
- 影の立役者としてのロマン — クレジットされずに数多くの名曲を支えたストーリーは、音楽史的なロマンと共感を呼ぶ。
遺産と影響
The Funk Brothersの演奏スタイルは、後のファンクやR&B、ポップスの演奏基準に大きな影響を与えました。James Jamersonのベースラインは後続のベーシストにとって教科書的存在になり、多くのミュージシャンがモータウン録音を研究しています。また、彼らの再評価は「スタジオ・ミュージシャンの価値」を改めて世に知らしめ、音楽制作におけるバックルームの重要性を強調するきっかけとなりました。
聴きどころ・楽しみ方の提案
- 曲を聴くときはボーカルだけでなく、ベースラインやタンバリン、ギターのカッティングなど「リズム隊」に意識を向けてみる。曲の印象が新鮮に変わります。
- 同じ曲の別テイクや他アーティストのカバーと聴き比べると、The Funk Brothersによる演奏がいかに曲の性格を決定づけているかがわかります。
- ドキュメンタリーやライナーノーツでメンバーの背景を知ると、演奏の細部に込められた工夫や人間味がより伝わります。
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参考文献
- The Funk Brothers — Wikipedia
- The Funk Brothers Biography — AllMusic
- Motown Museum(Hitsville U.S.A.)
- Standing in the Shadows of Motown — IMDb(ドキュメンタリー)
- The Funk Brothers — Britannica


