コーネリアス・カードューをレコードで聴く前衛音楽入門:聴き方と選び方を網羅する完全ガイド

はじめに — コーネリアス・カードューとは

コーネリアス・カードュー(Cornelius Cardew, 1936–1981)は、20世紀後半のイギリスを代表する前衛/実験作曲家の一人です。初期には自由即興や電子音楽、グラフィック・スコア(代表作:Treatise)などの実験的な手法で知られ、のちに社会主義・政治音楽へと方向を転じ、「Scratch Orchestra」や「People's Liberation Music」など集団的・参加型の実践を通じて音楽と政治の接点を探りました。本コラムではレコード(音盤)という切り口で、カードューの入門から深掘りまで役立つおすすめ盤と聴き方・選び方を詳しく解説します。

おすすめレコード概観(まずの一歩)

カードューの作品は演奏形態が多様で、同じ曲でも演奏者や時代によって印象が大きく変わります。以下は特に入手・聴取をおすすめする代表的なタイトル(あるいはテーマ別のまとめ)です。後半で各盤の背景や聴きどころ、どの版/再発を狙うかについて深掘りします。

  • The Great Learning(『大学』) — 集団合唱/実践的教義に基づく大作
  • Treatise(グラフィック・スコア)関連録音 — 解釈の違いを楽しむ(複数録音推奨)
  • AMM/初期即興録音 — カードューの即興・共演を知る
  • Scratch Orchestra の録音群 — 実践プロジェクトとしての記録
  • People’s Liberation Music などの政治的作品・コンピレーション — 後期の方向性を知る

The Great Learning(『大学』) — カードューの中心作を聴く

概要:The Great Learning(「大学」)は、カードューがテキスト(儒教の『大学』)を素材にして作った大規模な合唱・合奏作品群です。構成は教育的・参加的で、演奏者数や編成に柔軟性があり、集合的行為としての音楽を強く打ち出します。

聴きどころ:

  • 合唱と合奏が交差する巨大な音場。個々の声が全体にどう溶け込むかを聞く。
  • 音の強弱やテクスチャの変化で物語性を作る手法。指示は厳密な旋律よりむしろ振幅と密度に関することが多い。
  • 演奏ごとに表情が大きく変わる作品なので、ライブ録音とスタジオ録音で聴き比べるのが面白い。

版の選び方・入手先の目安:

  • スタジオ録音とライブ録音の両方を手元に置くのが理想。再発CDや配信で解説(ライナーノーツ)が充実している版を優先すると文脈が理解しやすい。
  • ディスコグラフィや専門レーベル(例:Recommended Records 等)で出自を確認するのがおすすめ。中古市場(Discogs)に良好なプレスが残っていることが多いです。

Treatise(トリーティス) — グラフィック・スコアの名作をどう聴くか

概要:Treatise は五線譜に代わるグラフィック記譜で書かれた大作スコアです。楽器指定や演奏法の詳細が書かれていないため、解釈の自由度が極めて高いことが特徴です。

聴きどころ・楽しみ方:

  • 録音ごとに全く異なる「作品」になる点を楽しむ。ある演奏は静的、別の演奏は激しい即興になることもあります。
  • スコア(図形、線、点、矢印)を手元に置いて、演奏がどのように図形を音化しているかを追うと理解が深まります。
  • 複数の演奏を比較して、解釈の幅を体感するのがTreatise聴取の本質です。

どの録音を選ぶか:

  • 代表的な演奏者・アンサンブルの録音をいくつか集めるのが最良。ピアノ主体の解釈、室内楽風、アンビエント寄りなどバリエーションが豊富です。
  • 演奏者の解説やライナーノーツがある版を選ぶと、作曲意図と解釈の接点が掴みやすいです。

初期即興録音(AMMなど) — 即興/現代音楽との接点を知る

概要:カードューは1960年代に即興演奏グループAMMに関わり、ジョン・ティルベリー(John Tilbury)らと活動しました。これらの録音はカードューの即興感覚と音響志向の深さを示します。

聴きどころ:

  • テクスチャと時間感覚。フレーズやモチーフより「音の継続」や「空間」への志向が強い。
  • 他のメンバーとの呼応。少数精鋭による極限の集中が聴取体験を作ります。

選び方:

  • AMM関連のオフィシャル復刻や信頼できる再発を探す。初期のライヴ録音は音質差があるので、音質と資料性のバランスで選ぶとよい。

Scratch Orchestra と実験的アンサンブル録音

概要:1969年にカードューが共同で立ち上げたScratch Orchestraはアマチュアからプロまで参加できる開かれた集団で、即興・教示的要素を取り入れた実践を行いました。録音は運動の記録であり、音楽教育/政治的実践としての側面を強く持ちます。

聴きどころ:

  • 参加者の多様性から生まれる不均質な音響。社会的プロセスがそのまま音に現れる。
  • 実験的な指示や行為が音楽としてどのように機能するかを観察する。

おすすめの聴き方:

  • 単なる「作品」として聴くよりも、ドキュメント(写真やプログラム)と合わせて当時の実践状況を知りながら聴くと理解が深まります。

後期の政治的楽曲群 — People's Liberation Music 等

概要:1970年代以降、カードューはマルクス主義・社会主義に傾倒し、プロレタリアートや労働運動に向けた歌唱/合唱曲、音楽運動を行いました。これらはプロテストソングとしての側面が強く、カードューの別の顔を示します。

聴きどころ:

  • 簡潔なメロディとわかりやすいテキスト、集団歌唱の力強さ。
  • 当時の政治状況や運動と結びつけて聴くことで、音楽的な意味がより明確になります。

具体的な聴取ガイド:聴く順番と時間配分

初めてカードューを聴く場合のおすすめ順:

  • 短時間で彼の多面性を把握したい:代表的なAMM即興録音(15–30分)→ The Great Learning(抜粋/短縮版)→ Treatise の短い演奏例 → People's Liberation Music の数曲
  • じっくり深掘りしたい:Treatise の複数録音(異なる解釈を比較)→ The Great Learning の完全盤やライブ録音(長尺)→ Scratch Orchestra のドキュメント録音→後期政治曲のコンピレーション

購入・入手のコツ

  • まずは配信・ストリーミングで聴いて気に入った録音をCDやアナログ盤で揃えるのが現実的。カードュー作品は演奏権や記録のばらつきがあるので、信頼できる再発(解説付き)を優先。
  • Discogs 等の中古マーケットでオリジナル盤を探す際は、音質・プレス情報・ライナーノーツの有無をチェック。再発CDは注釈や解説が充実していることが多い。
  • スコアや資料は大学図書館や専門アーカイブ、オンライン・アーカイブ(信頼できるサイト)で確認すると、録音の理解が深まります。

レコードを聴く際のメンタルモデル(作品理解のヒント)

  • 「正解」を探さない:カードューの多くの作品は解釈の幅を許容する。違いを比較すること自体が聴取の楽しみ。
  • 音楽を行為や実践の記録として捉える:特にScratch Orchestraや政治的作品は音楽を超えた社会的行為の側面が強い。
  • テキストや資料を併読する:特にThe Great Learning や後期の政治曲は、テキスト背景を知ると音楽の意図が見えてくる。

どの盤を最初に買うか(実用的なおすすめ)

  • The Great Learning の代表的録音(解説付きCD)— カードューの思想と音響世界を掴むのに最良。
  • Treatise の異なる演奏例を集めたもの(あるいは配信プレイリスト)— 多様な解釈を一度に体験。
  • AMM/初期の即興録音をまとめたコンピレーション— カードューの演奏者としての素顔を知る。
  • People’s Liberation Music 等の政治的録音のコンピレーション— 後期の姿勢を理解するための背景資料として。

最後に — カードューを楽しむための心構え

カードューの音楽は「答え」が一つではありません。初期の抽象性から後期の政治性まで幅が広く、録音を聴き比べ、スコアや資料に当たり、当時の文脈を学ぶことでどんどん面白くなります。レコード収集としては「複数の版を聴く」ことが最も報われるアプローチです。新しい解釈に触れるたびに作品の別の側面が見えてくるはずです。

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参考文献