12弦ギター完全ガイド:歴史・構造・チューニング・演奏技術・選び方と録音のコツ
はじめに:12弦ギターとは何か
12弦ギターは、6組の“コース”(各コースに2本の弦)によって構成されるギターで、典型的なチューニングは6弦ギターと同じくE–A–D–G–B–Eですが、低音側4コース(E・A・D・G)にオクターブ弦を加え、B・高音Eの2コースは同一ピッチのユニゾンで張られることが一般的です。その結果、豊かな倍音と独特の「ジャングル」「チャイミング」するような響きが生まれ、アンサンブルや録音で厚みを出すために多用されます。
歴史的背景と代表的な使用者
12コース楽器の系譜は中世〜ルネサンスのコース楽器に遡りますが、現代のスチール弦12弦ギターは19〜20世紀に形を整え、ブルースやフォークの世界で広まりました。代表的な奏者としては、リードベリー(Lead Belly、Huddie Ledbetter)がアコースティック12弦を愛用していたことがよく知られています。
1960年代には電気12弦(特にリッケンバッカー製360/12など)による「ジャングル」サウンドがロックに大きな影響を与えました。ローガン・マクガウィン(Roger McGuinn/ザ・バーズ)やジョージ・ハリスン(ビートルズ)らの使用で、その音色がポップ/ロックの定番となりました。後年ではレッド・ツェッペリンのジミー・ペイジがスタジオやステージで12弦を併用し、独特のテクスチャを楽曲に付加しました。
構造上の特徴と製作上の配慮
- ヘッドとペグ:ペグは12個必要なため、ヘッドは幅広化するか、6×6配置で延長されます。古典的ナイロン弦12コースはスロッテッドヘッドを用いる場合もあります。
- ネックと指板:ナット幅は6弦より広く(おおむね48–55mm程度)、弦間隔も変わるためフィンガリングやピッキング感覚が異なります。高いテンションに備え、トラスロッド強化や場合によって二重トラスロッドを採用するモデルもあります。
- ブリッジとサドル:12本分の張力と振動を受けるためブリッジは強固に作られ、サドルは補正(コンペンセーション)されていることが多いです。特にオクターブとユニゾンを正しく音程合わせするための工夫が必要です。
- ボディとブレーシング:高いテンションを支えつつも鳴りを出すため、トップ材(スプルース等)とブレーシング設計のバランスが重要です。ドレッドノートやジャンボなどのボディシェイプで存在感のある低域と豊かな倍音を出す設計が多く見られます。
チューニングとテンション管理
標準チューニングはE–A–D–G–B–Eで、低音側4コースはオクターブ上の弦を加えます。ただしテンションは6弦に比べて格段に高く、弦ゲージやスケール長(スケール長が長いほど同ゲージでテンションが増える)を考慮する必要があります。多くの奏者は軽めのゲージを選び、必要に応じて1フラットなどに下げてからカポを使うことでテンションを下げるテクニックを用います。
また、レコーディング界隈で言う“Nashville tuning”は6弦の代わりに12弦のオクターブ弦のみを張る(または同等の編成を行う)手法で、12弦の「チャイム」成分を部分的に再現する目的で用いられます(厳密には別概念ですが関連しています)。
演奏技術とサウンドの作り方
- ストローク:ストロークは12弦の特性を最も引き出す方法です。下方向のストロークでオクターブ弦が強調され、独特のきらめきが得られます。ピックを少し厚めにして1本でしっかり弦に当てるのがコツです。
- 指弾き:コースごとの幅が狭いため細かいフィンガーピッキングでも美しい和音が得られますが、各コースの弦を均等に鳴らすために爪やフィンガーピックを使う奏者も多いです。
- アレンジ上の工夫:アルペジオや分散和音は12弦の倍音を際立たせます。一方で単音フレーズは6弦に比べて埋没しやすいので、バッキングとメロディーの役割をはっきり分けることが多いです。
録音とアンプリファイドの注意点
アコースティック12弦を録音するときは、マイクの選定と位置が音色に大きく影響します。ブリッジ寄りに寄せればタイトで明瞭、サウンドホール付近では豊かな低域と倍音を拾います。ピエゾや内蔵マイクを持つモデルは便利ですが、位相や高域のノイズが問題になることがあるため、マイク音とブレンドして使うのが定石です。
エレクトリック12弦(リッケンバッカー等)はアンプやエフェクト(コーラスやリバーブ)で「ジャングル」サウンドを強調できますが、過度なディレイやローエンドブーストは音を濁らせるので注意が必要です。
日常のメンテナンスとトラブル対処
- 張り替え:12本の張力が一度にかかるため、張り替えは一本ずつ行い、急激なテンション変化を避けるとネック反りのリスクが低くなります。
- ナットとサドル:ナットの溝は12弦専用に深さ・角度が調整されているか確認し、頻繁な摩耗には潤滑(グラファイト等)やリフィルが必要です。サドルは補正されているかをチェックし、必要ならリセッティングやシャープなコンペンセーションを行います。
- ネックの反り・ねじれ:高テンションによりネックにねじれや反りが生じやすいため、環境(湿度・温度)管理と定期的なトラスロッド調整が重要です。長期間保管する場合は弦のテンションを多少緩めることも検討します。
- 弦切れ:オクターブ弦は細いゲージを使うことが多く、摩耗で切れやすいです。弦の品質や弦の巻き方(ポストに巻く回数)を見直すと頻度が下がります。
選び方:何を基準に12弦を選ぶか
選択時のポイントは用途(スタジオ録音・ライブ・ソロ弾き語り・バンドのバッキング)によって異なります。以下の点を基準に検討してください。
- ボディ形状:ジャンボやドレッドノートは倍音が豊かで大音量でも埋もれにくく、シェイプで音色が変わります。
- スケール長とネック太さ:長めのスケールはテンションが強く張り感が出ますが、ネックが太いとフィンガリングが難しくなるため実際に弾き比べることが重要です。
- 弦ゲージとセット:メーカーが推奨する12弦専用弦セットを使用するのが無難です。軽めのセットは演奏しやすく、重めは音量とサステインが増します。
- 電装:ライブで使うなら品質の高いピックアップやプリアンプを備えたモデルを選び、録音ではマイクとの相性も考慮します。
実用的なアドバイスと演奏上のコツ
・初めて12弦を弾く場合は、6弦と同じフレット感覚でも弦の反応が異なることを意識して、ゆっくりとシンプルなストロークから始めると良いです。
・チューニング時はオクターブ弦が主音に対してしっかり合っているかを耳で確認。特に弦交換直後は落ち着くまで頻繁に合わせる必要があります。
・バンドの中で12弦を使うときは、低域が他の楽器とぶつからないようコンピングを工夫し、中高域の「きらめき」を活かすアレンジを心がけましょう。
まとめ:12弦ギターの魅力
12弦ギターは、その独特な倍音構造と厚みのあるサウンドで、単なる大きな6弦では得られない「装飾的で広がる音像」を与えてくれます。扱いは6弦よりも難しい面がありますが、適切なセットアップと演奏法を身につければ、アンサンブルやソロで非常に効果的な武器になります。目的に応じたモデル選びと日常メンテナンスを心がけ、12弦ならではの響きを存分に楽しんでください。
参考文献
- Twelve-string guitar — Wikipedia
- Lead Belly — Wikipedia
- Rickenbacker — Wikipedia(360/12などの歴史含む)
- Martin Guitar — 12-String Information
- Nashville tuning — Wikipedia
- Gibson EDS-1275 — Wikipedia(ダブルネックの歴史など)


