モーツァルト:弦楽四重奏曲第11番 変ホ長調 K.171(1773)――作曲背景・楽曲分析と聴きどころガイド
はじめに
ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトの弦楽四重奏曲第11番 変ホ長調 K.171(1773)は、作曲家がまだ若年期に書いた“四重奏曲群”の中の重要作の一つです。若きモーツァルトが室内楽というジャンルに真剣に取り組み、ハイドンや同時代の室内楽伝統から学びながらも独自の歌心と対位法的技巧を発揮している点が聴きどころです。本稿では、作曲の時代背景、楽曲の構造と主要な音楽的特徴、演奏上の注意点、推薦盤・版について詳しく解説します。
作曲背景と歴史的位置づけ
K.171は1773年に作曲されたとされ、モーツァルトが十代後半にあたる時期の作品です。この頃のモーツァルトはオペラや交響曲、室内楽を精力的に手がけ、さまざまな技法を吸収して作品に反映させていました。弦楽四重奏という編成自体はハイドンの影響が色濃く、モーツァルトもハイドン作品を研究し、四重奏の規範(ソナタ形式の扱い、対話的な書法、ミヌエットの位置づけなど)を踏襲しつつ、より歌曲的な主題や劇的な感情表現を折り込んでいきます。
変ホ長調という調性は、古典派においては落ち着きと貴族的な気品を表すことが多く、ホルンなどの自然倍音楽器にとっても扱いやすい音域です。この曲でも調性がもたらす色彩感が随所に現れ、穏やかな高雅さと時折みせる躍動感が作品全体の魅力を形成しています。
楽曲構成と各楽章の分析
弦楽四重奏曲第11番は古典的な四楽章形式を踏襲しています。以下に各楽章の形式的特徴と聴きどころを示します。
第1楽章:アレグロ(ソナタ形式)
第1楽章は典型的なソナタ形式を基盤に持ちます。提示部では歌謡性の高い主題と対照的な活発な副主題が登場し、モチーフのやり取りを通して四つの声部が対話します。展開部では主題の断片が動機的に展開され、転調や対位法的な扱いによって緊張感が高まる部分が魅力です。再現部では主題が安定して戻り、終結部では華やかな結尾句で締めくくられます。
第2楽章:アンダンテ(変奏または歌唱的な緩徐楽章)
変ホ長調の温かみを活かしたカンタービレ(歌うような)な楽章。旋律は主に第一ヴァイオリンに委ねられることが多いものの、内声部が和声の色を豊かにし、チェロが支えを与えることで全体として室内楽的な繊細さが表現されます。モーツァルトはここで短い装飾や内声の応答を用い、単なる表層的な美しさに留まらない深みを与えています。
第3楽章:メヌエットとトリオ
古典派四重奏の伝統に従った舞曲楽章。メヌエット本体はやや格式高い雰囲気を保ちながらも、主体的なリズムや和声の動きにより個性を帯びています。トリオでは調性やテクスチャが変わり、小さな対比を生むことで全体の構成にバランスを与えます。踊りのリズムを感じさせつつ、室内楽としての会話性を重視して演奏するのが大切です。
第4楽章:アレグレット/ロンド風フィナーレ
終楽章は軽快でリズミカルな性格を持ち、ロンドやソナタ形式的要素を混ぜた構成が考えられます。主題が何度も戻るロンド主題の扱いと、それに挟まれる対照的なエピソード群が聴き手の興味を引き続けます。若きモーツァルトらしい機知に富んだ動機の展開と、最後に向けた高揚感の構築が魅力です。
楽曲の特徴と聴きどころ
主題の歌い回しと室内対話:モーツァルトは旋律の美しさと、各声部の応答・模倣を巧みに組み合わせます。第一ヴァイオリンに優れた歌が与えられる一方で、内声やチェロも単なる伴奏に留まらず、しばしば独立した動機を展開します。
ハイドン的な構成感と独自の和声感:形式面ではハイドンの影響を感じさせながら、和声の微妙な色合いや転調の処理にモーツァルトならではの鋭敏さがあります。短い動機を反復・変形していく作法が随所に見られます。
舞曲性と劇的瞬間の併存:メヌエットの優雅さと、アレグロ楽章の劇的な主張が同一作品内で共存し、聴き手は多層的な表情の変化を楽しめます。
演奏上のポイント(実践的アドバイス)
バランスの調整:第一ヴァイオリンの歌を活かしつつ、内声の重要性を忘れないこと。モーツァルトの四重奏は“会話”であり、どの声部も物語に寄与しています。
フレージングとアーティキュレーション:手持ちのフレーズを自然に歌わせること。短いリタルダンドやデュナーミクの微妙な揺らぎが表情を豊かにしますが、過度にロマンティックにならないよう注意します。
音程とヴィブラート:史的演奏慣習を意識するならヴィブラートは節度を保ち、音程は純正に近い響きを心がけるとモーツァルト的な透明感が出ます。
版と録音のおすすめ
最新版の校訂版を使うことを推奨します。楽譜は公共ドメインの原典資料がIMSLPなどで入手できますが、現代の校訂版(クリティカル・エディション)を併用すると、演奏上の解釈や装飾に関する注記が参照でき便利です。
録音では、歴史的楽器での演奏と現代楽器での演奏のどちらにも魅力があります。Quatuor Mosaïques(古楽奏法)やAmadeus Quartet、Hagen Quartet(近代)など、名演奏がいくつか存在します。演奏スタイルの違いを比較して聴くことで、新たな発見があるでしょう。
聴きどころガイド(章ごとのタイムスタンプ的指標)
第1楽章:提示部の主題提示(開始~数十秒)と展開部での動機的展開に注目。楽章中盤での転調や対位法的なやり取りがクライマックスになります。
第2楽章:メロディの歌わせ方と内声の対話。装飾音や短い装飾的フレーズの扱いに注目。
第3楽章:メヌエットのリズムの均衡とトリオの対比的な色彩。
第4楽章:主題の再現と終結への組み立て。終楽章のエネルギーの高まりと呼吸感に注目するとよいでしょう。
なぜ今この曲を聴くべきか
K.171はモーツァルトの室内楽の中で“成熟への途上”を示す魅力的なドキュメントです。十代の作曲家が既存の様式を吸収しつつ、個人的な歌とコントラストを築き上げていく様子が楽曲に凝縮されています。やさしい旋律と同時に精緻な構成を味わえるため、モーツァルト入門者にも、研究的に聴き込むリスナーにも価値ある一曲です。
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参考文献
- IMSLP: String Quartet in E-flat major, K.171 (Mozart, Wolfgang Amadeus)
- Britannica: Wolfgang Amadeus Mozart
- Wikipedia: String Quartet No. 11 (Mozart)(参考用。一次資料と合わせて参照してください)
- AllMusic(録音や解説の検索に便利です)
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