モーツァルト 弦楽四重奏曲第12番 K.172(1773)徹底解説:作曲背景・楽曲構成・聴きどころ
概要:K.172とは何か
モーツァルトの弦楽四重奏曲第12番 変ロ長調 K.172 は、1773年に成立した一連の弦楽四重奏曲(K.168〜173)のうちの一曲です。古典派期に位置するこの作品群は、モーツァルトの室内楽への本格的な取り組みの一端を示しており、K.172はその中でも明快な主題展開と対位法的なやり取り、弦楽カルテットらしい会話性が顕著な作品です。作品番号や通し番号は版によって違いがあるため「第12番」と表記される場合もありますが、Köchel番号 K.172 が同一作品を指します。
作曲の背景と歴史的文脈
1773年、モーツァルトはまだ若くサルツブルクに在住していた時期に当たり、交響曲や宗教曲、オペラなどと並行して室内楽作品にも精力的に取り組んでいました。この年にまとめて作られた弦楽四重奏曲群(K.168〜173)は、作曲当時の室内楽様式、特にハイドンやMannheim楽派、イタリアの室内楽的感覚の影響を受けています。モーツァルトは当時ハイドンの弦楽四重奏曲やその技法に注目しており、以後の成熟期に向けた土台作りがここで進められていると評価されます。
これらの早期四重奏曲は、のちにモーツァルトがハイドンに捧げた「六つの弦楽四重奏曲(K.387ほか)」へと至る発展の過程に位置づけられます。K.172は形式の堅固さと同時に、若き作曲家の新鮮な旋律感覚や楽器間の均衡を志向する姿勢が読み取れます。
楽曲構成(概観)
K.172 は典型的な古典派の四楽章構成をとることが多く、以下のようなフレームで演奏されます(版や解釈により表示されるテンポ表示は若干異なる場合があります)。
- 第1楽章:速いテンポのソナタ形式(序奏をもたないことが多く、明快な主要主題で開始)
- 第2楽章:緩徐楽章(歌うような旋律と落ち着いた伴奏を特徴とする)
- 第3楽章:メヌエット(古典的な舞曲)とトリオ
- 第4楽章:終楽章(快活なリズムで曲全体を締めくくるロンド/ソナタ・ロンド風の展開)
各楽章は短めで端正な造りが多く、総じて古典派の「明晰さ」と「均整」を重視した書法が感じられます。
各楽章の聴きどころ(深掘り)
第1楽章は、典型的なソナタ形式(提示→展開→再現)を基礎にしつつ、主題素材の扱いが洗練されています。主題は旋律的で耳に残りやすく、それが楽器間で受け渡されることで“会話”が生まれます。特に第1ヴァイオリンに主旋律が置かれる瞬間と、内声(ヴィオラや第2ヴァイオリン)が装飾的または対位的に応答する場面が、モーツァルト的な機智を示します。
第2楽章は歌心のある緩徐楽章で、モーツァルトの抒情性が前面に出ます。ここではメロディの自然なフレージングと分散和音に基づく伴奏のバランスが大切で、演奏におけるフレージングのしつらえやテンポのわずかな揺らぎ(rubato)は表現の決め手になります。
第3楽章のメヌエットは古典派の礼儀正しさと舞曲としての躍動感を併せ持ちます。トリオではしばしば楽器編成の色合いを変えることによりコントラストを作り出し、復帰するメヌエットの再提示では小さな装飾やダイナミクスの差が効果的です。
終楽章は軽快でリズミカル、時に狡猾さをもった主題が登場します。ソナタ・ロンドの要素を持ち、主題がしばしば再現されつつ展開部で多様な調性や断片的な動機が試されます。終結部にかけてはテンポ感を崩さず、しかし推進力を強めていくことが演奏上の要点です。
作曲技法と和声・対位の特徴
K.172に見られる特徴としては、次の点が挙げられます。
- 短い動機素材を巧みに繰り返し・変形して楽曲全体の統一を図る手法。
- 各声部の独立性を保ちつつも、対話的なテクスチャーで均衡を取る室内楽的配慮。
- 古典的和声進行を基盤にしながら、転調やモジュレーションを用いて色彩的な変化をつけること。
- 内声(特にヴィオラ)の存在感が増している点—単なる伴奏ではなく、主題の応答や対位を担う。
これらはモーツァルトがハイドンらの弦楽四重奏曲に学びつつ、自身の語彙を拡げていることを示しています。
演奏上のポイント(実践的アドバイス)
室内楽としての演奏では、次の点を意識するとK.172の魅力がより明確になります。
- 均衡した音量とアーティキュレーション:各声部の対話を損なわないバランスを優先する。
- フレーズの終わりと始まりでの呼吸感:古典派のフレーズ構築を尊重しつつ、歌わせるべき箇所は丁寧に。
- 装飾や余韻の処理:ヴィブラートやニュアンスは控えめに、時代感を踏まえた表現を心がける。
- リズムの明晰さ:特に第1楽章と終楽章では、リズムの推進力が全体の印象を左右する。
楽譜・版について(校訂と入手)
K.172 の楽譜は各出版社から出ており、オンラインでは公共ドメインのスコアも参照できます。校訂譜を使用する場合は、装飾や発想記号など編集者の解釈が反映されているため、演奏前に複数版を比較することをおすすめします。原典版(Neue Mozart-Ausgabe)や信頼できる全集校訂は、作曲当時のテキストにより忠実です。
おすすめの録音と聴きどころガイド
早期四重奏群は後期の“ハイドンへの献呈”シリーズほど録音数が多くはないものの、以下のような演奏で聴き比べると面白い発見があります。
- 歴史的楽器での演奏:古楽器アンサンブルによる演奏は当時の音色感とアーティキュレーションを体感できます。
- モダン・ストリング・カルテット:テクスチュアの明瞭さや音の厚みが際立ち、旋律線の歌わせ方が多様です。
- 比較の視点:各楽章でのテンポ感やダイナミクス処理、ヴィオラや第2ヴァイオリンの扱いに注目すると解釈の差が見えてきます。
K.172が現代に残す意味
K.172はモーツァルトが室内楽の言語を磨き上げていく過程の重要なピースであり、古典派の様式と個人的な旋律感覚が融合した“若き天才の工房”のような作品です。後年の成熟した弦楽四重奏曲に比べると規模は小さいものの、簡潔な中に豊かな表情が凝縮されています。演奏・聴取の双方にとって、モーツァルトの発想の萌芽を味わえる魅力的な曲です。
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参考文献
- IMSLP:String Quartet No.12 in B-flat major, K.172(楽譜)
- Wikipedia:List of works by Wolfgang Amadeus Mozart(作品一覧)
- AllMusic:Composition entry for String Quartet in B-flat major, K.172
- Neue Mozart-Ausgabe(デジタル版・全集校訂への入り口)
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