モーツァルト:教会ソナタ K.124c(Anh. C 16.01)――真贋と史的背景を読み解く
導入 — なぜK.124cは注目されるのか
モーツァルトの名を冠した小曲のなかには、真作か偽作かが長年議論されてきたものが多数あります。K.124c(併記としてAnh. C 16.01とされることがある)は、そのような「偽作(spurious)」に分類される例の一つです。本コラムでは、当該作品がなぜ偽作と見なされるに至ったのか、史料的・様式的な観点から検証し、演奏と編集の上での示唆を提示します。
作品の概要とカタログ表記
「K.124c(Anh. C 16.01)」という表記は、モーツァルト作品目録(ケッヘル目録)やその補遺リストに由来する通称です。K.(Köchel)番号はモーツァルト作品の標準的番号付けですが、確実性の低い作品や偽作・疑義作は補遺(Anhang/Anh.)に分類されることがあります。Anh. C といった表記は、編纂や版によって補遺群を細分した表記法で、現代の系統だてられた目録では『真贋不確かな作品群』として扱われます。
出典と写本の状況
本作品が真作ではないとされる最大の理由の一つは、確定的な自筆譜(オートグラフ)の欠如です。モーツァルトに確実に帰属される作品では、父レオポルトやウィーンの出版社、ザルツブルクの教会関係者を介した比較的明確な写本伝来が残ります。一方でK.124cについては、後世の写譜(18〜19世紀の写本)に基づく伝来しか確認されず、筆者や紙質・透かしなどの点でもモーツァルトの確証が取れません。
真贋判定に用いられる主要な検討項目
- 史料学(出所・写本の年代測定、透かし・インクの照合)
- 筆跡学(自筆譜が残る場合の筆跡照合)
- 様式分析(和声進行・動機処理・器楽法が既知のモーツァルト作品群と整合するか)
- 史的記録(教会記録、楽譜目録、出版記録や仮名の注記)
K.124cはこれらのいくつかの項目で疑問が残り、専門家の多くは偽作ないし他者作と結論づけています。
様式的観察:何が「モーツァルトらしくない」のか
「モーツァルトらしさ」の判定は主観に陥りやすいですが、研究者は具体的な音楽的特徴を挙げて比較を行います。K.124cに対して指摘される典型的な様式的問題点は次の通りです。
- 和声進行の単純化:モーツァルトの教会作品に見られる巧妙な和声的転回や期待外れの和声処理が欠け、時に陳腐な転回を示す。
- 動機の発展不足:モーツァルトは短い主題でも精緻に発展・連結させるが、本曲は短い断片が寄せ集められた印象を与えることがある。
- 器楽的扱いの不自然さ:当時のザルツブルク様式やウィーンの教会ソナタ標準と比べて、オルガンと弦の応答関係やバランス設計が不均衡と評価される部分がある。
これらは単独で決定打にはなりませんが、他の史料的欠如と合わせて偽作説を支持する根拠となります。
プロヴェナンス(伝来経路)の問題
多くの偽作は、19世紀の写譜家や編集者が需要に応じて「モーツァルト風」の小曲をモーツァルト名で流通させた経緯を持ちます。教会ソナタのような短い典礼用作品は特に実用を目的として多数作られ、作曲者名の付与が曖昧になる例が少なくありません。K.124cも写譜が19世紀に増えたタイミングで広まった痕跡があり、近代的な出版社のカタログや楽譜売買を介してモーツァルト作と誤認された可能性が高いです。
他の作曲家との比較:候補者の可能性
偽作の多くは、同時代の地方作曲家(ザルツブルクやウィーン周辺のオルガン奏者・教会音楽家)が作者であることが多いです。具体的な別作者を断言する史料が存在しない場合でも、様式的に近い作曲家を候補に挙げる研究はあります。ただし、K.124cについては「特定の代替作者に決めうちするに足る証拠はない」ことが多くの目録に記されています。
版と演奏上の取り扱い
編集者と演奏家が直面する実務的な問題は二つあります。第一に、真贋不確かな作品をどのように扱うか(モーツァルト作品集に含めるのか、別章に分けるか)。第二に、演奏解釈です。真作としての解釈を前提にすると過度にモーツァルト的な装飾やテンポ設定を施してしまう危険があります。現代の実践的な提案としては以下が挙げられます。
- 史料的注意書きを付した上で楽譜を公開・演奏する。
- 装飾や継ぎ目の処理は、当該写本の慣例と同時代の確定作品を参照して慎重に行う。
- プログラミングでは「モーツァルト真作集」ではなく、同時代の教会音楽特集や「偽作・疑義作特集」として位置づけることで聴衆への期待値を適切に管理する。
なぜ偽作は残り続けるのか:文化史的視点
偽作が生き残る理由は単にミスカタログ化だけではありません。モーツァルトの名は商業的価値を持ち、19世紀以降の出版流通と音楽教育の需要により「短くて使いやすいモーツァルト曲」が歓迎されました。また、写譜文化の連続性と教会の実務上の必要は、匿名または地方作曲家の作品が広まる素地を作りました。学術的に真贋を確定する努力は続いていますが、真作か否かにかかわらず、こうした作品は当時の演奏習慣や儀礼音楽の実像を伝える重要な史料でもあります。
まとめ — K.124cをどう聴くか
K.124c(Anh. C 16.01)は、現在の主要なモーツァルト目録や研究で偽作もしくは疑義作として扱われることが多い作品です。自筆譜の不在、様式的な差異、伝来経路の不明瞭さなどがその理由です。しかしながら、音楽的価値が否定されるわけではなく、18世紀後期の教会音楽のあり方を理解する素材として興味深い作品です。演奏や刊行にあたっては史料批判的注記を付し、聴衆に背景を丁寧に伝えることが重要です。
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参考文献
- IMSLP: Mozart — Spurious and Doubtful works(写譜の所在や版情報の参照に便利)
- Neue Mozart-Ausgabe (NMA)(モーツァルト研究の標準版。真贋に関する注記を参照)
- Köchel catalogue — Wikipedia(ケッヘル目録と補遺の解説)
- Grove Music Online / Oxford Music Online(モーツァルト研究全般、教会ソナタに関する総説)
- RISM(Répertoire International des Sources Musicales)(写本・版の出所確認に有用)
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