モーツァルト:幻想即興曲 K. Anh. C 27.02 — 偽作の来歴と音楽的検証
概要
「モーツァルト:幻想即興曲 K. Anh. C 27.02(偽作)」とは、伝統的なモーツァルト作品目録の補遺(Anhang)に分類されている楽曲で、作曲者表記に疑義が付された作品の一つです。一般に「幻想(Fantasia)」「即興曲(Impromptu)」と呼ばれることがあり、かつてはモーツァルトの作とされて流通した資料や楽譜が存在しますが、現在の音楽学では真正性に疑問符が付けられています。本稿では来歴、版史、楽曲の音楽的特徴、偽作と判断される根拠、演奏・受容の現状を整理し、なぜ今日この作品が“モーツァルト作品”として扱われないことが多いのかを考察します。
来歴と版史
この種の疑義作は、モーツァルト自身の自筆稿が残らない場合、あるいは初出資料が作曲者の没後に刊行された場合に発生します。K. Anh.(ケッヘル目録の補遺)に入る作品群は、写譜や19世紀以降の印刷譜、あるいは伝承の混乱により本来の作曲者を見失ったものが多く含まれます。K. Anh. C 27.02 として分類される楽曲も、同様に自筆譜が確認されないこと、初出がモーツァルトの生前資料ではないことが、補遺扱いとなった主要因です。
出版史としては、19世紀以降に流通した版でモーツァルト名義で出回った例があり、それが混乱の原因になりました。こうした版はしばしば写譜上の誤記、編曲者の改変、あるいは出版商の意図的な帰属付け(売りやすさのため)によって作曲者名が付されることがあり、後年の音楽学的検証で疑義が指摘されることになります。
楽曲の音楽的特徴(概観)
ここで言う「幻想即興曲」は、形式的には自由な幻想曲(幻想=自由な即興性)と短い即興的挿入を合わせたような構成をとる場合が多く、ロマン派的な即興性を感じさせる和声や表現が特徴とされます。具体的には以下の点がしばしば指摘されます。
- 和声進行や転調の大胆さ:モーツァルトの古典期的均衡に比べて、よりロマン派以降の語法を想起させる急激な和声移動やクロマティズムが見られること。
- 音楽語法の時代不整合:モーツァルトの同時期のピアノ作品(ソナタや幻想曲など)と比べ、和音の扱い・装飾法・右手左手のテクスチャに差異があり、様式的に整合しない点があること。
- ピアノ技法の近代性:ピアノの奏法や音域の扱いが後代の楽器・奏法に基づいているように見える箇所があり、原資料がモダンピアノ向けの改訂である可能性があること。
これらの特徴は必ずしも決定的な証拠ではありませんが、総合的に見ると作者論に疑義を生じさせます。
なぜ偽作(または疑義作)とされるのか
音楽学がある作品を「偽作」または「疑義作」と分類する際には、以下のような根拠が重視されます。K. Anh. C 27.02 に関しては、おおむね次の点が典型的な理由として挙げられます。
- 一次資料(自筆譜や信頼できる初期写譜)の不在:モーツァルト自筆の証拠がないことは最も基本的な疑義の根拠です。真正性を裏付けるためには自筆か、モーツァルトの同時代の確かな写譜が必要です。
- 版史の混乱:初出が後年である、あるいは出版者や編者の付記が不十分で出典確認ができない場合、作曲者帰属は信用されにくくなります。
- 様式分析による不整合:和声法、旋律生成、音楽の構築法がモーツァルトの既知の作風と著しく異なる場合、別の作曲家の手による可能性が高まります。
- 類似作や模倣の可能性:別の作曲家の作品の模倣や編曲、あるいは出版商が有名作曲家の名を付して売ったケース(偽名義出版)などの歴史的実例もあります。
K. Anh. に分類される多くの作品は、これら複数の要因が重なって偽作・疑義作と判断されています。個々の作品については、ケッヘル目録の改訂版やNeue Mozart-Ausgabe(新モーツァルト全集)などの学術カタログで精査され、正当性が再評価される場合もあります。
楽曲分析:具体的な聴きどころと疑問点
作品を音楽的に検討するとき、以下のポイントを手がかりにすると良いでしょう。これらは必ずしも決定的な“偽作の証拠”ではありませんが、判断材料として有用です。
- 主題の処理:主題が単純に繰り返されるだけでなく、対位法的な展開や動機の変容が見られるか。モーツァルトは短い動機を巧みに発展させる傾向がありますが、疑義作では表面的な装飾に終始する場合があります。
- 和声進行の典型性:代替和音、二次的属和音、モードの扱いなどがモーツァルトの慣用と一致するかを確認します。古典派の規範から外れた頻繁な遠隔調への転調などは注意点です。
- 鍵盤テクスチャ:左手の伴奏パターン、装飾音、ペダリング暗示(後代のピアノ奏法に依存する箇所)などから、原楽器や編曲の痕跡を推測します。
- 写譜・版の読み取り:初出の調査が可能であれば、写譜の筆致、訂正、脚注などから編曲者や改訂者の存在が推定できることがあります。
これらの分析を組み合わせることで、作品がモーツァルト本人の創作行為と整合するかどうかを判断します。K. Anh. C 27.02 に関しては、複数の分析者が上述の不整合を指摘しており、現在では慎重な帰属が求められています。
演奏・録音の状況と受容
偽作とされる作品であっても、音楽としての魅力があれば演奏会や録音で取り上げられることがあります。K. Anh. に含まれる作品群は、モーツァルト名義で広く知られる正典作品に比べれば扱いは少ないものの、ピアノアンソロジーや「モーツァルトの断片/疑義作」的な企画盤、学術的関心を持つ演奏家のプログラムなどで聴くことができます。
リスナーや演奏家にとっては、作曲者の確定よりも楽曲自体の音楽的価値が重要視される場合が多く、特にピアニストが即興性や情感を重視する演奏をする際には採り上げられることがあります。一方で、作曲者がモーツァルトでないと分かればプログラム上の扱いは明確にされることが多く、学術的な注記が付されるのが一般的です。
結論:作品の扱い方と今後の研究課題
K. Anh. C 27.02 のような補遺(Anhang)に分類された楽曲は、単純に「偽物」あるいは「無価値」と決めつけられるべきものではありません。音楽学的には真正性の検証が重要ですが、同時に音楽そのものの価値も併せて評価されるべきです。現在のところ、この作品は一次資料の不在や様式的不整合からモーツァルトの真正作とは見なされにくく、学術カタログでは補遺へ配されているのが実情です。
今後の研究課題としては、写譜や初期刊行譜のさらなる探索(図書館や個人コレクションの未知資料の発掘)、書簡などの文献証拠の再検討、そして数理的・統計的手法を用いた様式分析(機械学習などを含む)による作者特定の精緻化が挙げられます。こうした多角的なアプローチにより、補遺に分類された作品の帰属に関して新たな結論が得られる可能性があります。
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参考文献
- Köchel catalogue — Wikipedia
- Neue Mozart-Ausgabe (Digital Mozart Edition) — Mozarteum Foundation
- IMSLP / Petrucci Music Library — Mozart: Spurious and Doubtful Works
- Wolfgang Amadeus Mozart — Encyclopaedia Britannica
- Oxford Music Online / Grove Music Online(要購読)
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