バッハ BWV22『イエス十二弟子を召し寄せて』徹底解説

概説:BWV 22 とは何か

「Jesus nahm zu sich die Zwölfe(イエスは十二弟子を自らに呼び寄せ)」(BWV 22)は、ヨハン・ゼバスティアン・バッハの初期宗教カンタータの一つで、テキストの主題はルカ福音書の一節(イエスが十二弟子を呼び寄せ、受難を語る場面)に取られています。作品はルター派の典礼年におけるクィンクワゲジマ(四旬節前の主日)のために作曲されたと考えられており、バッハのヴィーマール時代(おおむね1708–1717年)に属する作品群の一つです。

歴史的背景と作曲の位置づけ

バッハはヴィーマール在勤期に宮廷楽長的な活動を行い、教会カンタータの作曲・上演を通じて技術を磨きました。BWV 22 はその過程で成立した作品の一つであり、バッハの宗教音楽における文法が明確に現れている点で注目に値します。文字どおりの初演日や自筆譜の現存状況については写本や史料に基づく研究が必要ですが、現存する音楽的証跡や当時の礼拝暦との照合から1714年ごろに作曲・初演された可能性が高いとされています。

テクストと神学的焦点

タイトルが示す通り、中心となるのはイエスが弟子たちに受難(十字架に向かう出来事)を予告する場面です。カンタータのテクスト(作者は不詳)は福音書の叙述を受けて、信仰者に向けた内省と応答の言葉を重ねます。バッハはしばしば福音書の物語的・預言的要素を、個人的な悔悟や希望へと翻訳することで聴き手の信仰体験を音楽化しました。本作も例外ではなく、預言の冷静さと信徒の感情的応答が対比的に描かれます。

音楽語法と表現技法

BWV 22 に見られる音楽的特徴は、バッハの成熟した語法の萌芽を示しています。以下の要素が特に重要です。

  • レチタティーヴォとアリアの相互作用:物語的・語り的な部分にはレチタティーヴォ(オートバーン的・通奏低音伴奏)を用い、個人的・感情的な応答にはメロディックで装飾的なアリアを配することで、テキストの層を分かりやすく音化しています。
  • 器楽と声部の対話:リコーダーやオーボエ、弦楽器の義務的旋律(オブリガート)がヴォーカルラインと密に絡み、テキストの語気や情感を色彩豊かに描写します。器楽パートは単なる伴奏ではなく、しばしば語り手としての役割を帯びます。
  • 和声的・対位法的扱い:イタリア的なアリア風技巧とドイツ宗教音楽の伝統である対位法的展開が折衷され、短いモチーフの発展や呼応が作品全体の統一感を作り出します。
  • コラール的締めくくり:バッハがしばしば行ったように、共同体の礼拝音楽として親しまれる簡潔なコラールや合唱で終結させることで、個人の信仰告白を共同体の賛歌へと回収します。

演奏時間・編成・演奏上の留意点

演奏時間は版やテンポ感によりますが、通常20分前後の短めのカンタータとして扱われることが多いです。編成はソロ声部と小規模な弦楽合奏、通奏低音、および木管楽器を含む典型的なバロック時代の教会編成が想定されます。演奏上のポイントは以下のとおりです:

  • 声の扱い:当時の慣習を踏まえ、ソリストは柔軟な発声でレチタティーヴォの言語的明瞭さとアリアの装飾性を両立させる必要があります。ソロを務める声種(ソプラノ/アルト/テノール/バス)の配分は楽譜に基づきますが、合唱部分は小編成での運用が歴史的に説得力があります。
  • ピッチとテンポ:古楽器アプローチ(ヴィーラ・ダ・ガンバ・相当する古典的弦、バロックオーボエ、古楽フレット楽器など)を採用すると、和声と色彩がより当時の響きに近づきます。テンポはテキストの語勢とレトリックを優先して決めると自然です。
  • 通奏低音の役割:通奏低音は和声の骨格を与えるだけでなく、レチタティーヴォの語り手的役割を支えるため、チェンバロやオルガン、チェロやヴィオーネのバランスを工夫してください。

解釈上のポイント:テキストの音楽化をどう聴くか

本作を聴く際には、以下の視点が鑑賞を深めます。まず「受難の予告」という冷徹な出来事記述と、それに対する信徒側(あるいは作者側)の内的反応が音楽的にどのように対置されているかを意識してください。次に、器楽的モチーフがテキストの語句や神学的キーワードを反復・変奏することで、聴覚的に意味を強化している点に注目すると、バッハの神学と音楽表現の結びつきが見えてきます。

録音・演奏例の紹介(入門)

本作は録音数は非常に多いわけではありませんが、歴史的楽器・声楽陣による演奏と、近代的合唱編成による演奏のどちらも聴き比べる価値があります。歴史的に理解の進んだ演奏(古楽器/小編成)は、テキストの言葉と器楽対話の微細なニュアンスを聞き取るのに適しています。一方で大編成の録音は声のスケール感や合唱的強調を際立たせます。代表的な演奏家・指揮者としては、古楽志向の指揮者(例:マサアキ・スズキ率いる合奏団や、ジョン・エリオット・ガーディナーの録音群)や、トーン・クープマン等が挙げられます(録音ごとの解釈差を楽しんでください)。

学術的注目点と研究課題

BWV 22 はバッハ研究において、初期宗教カンタータの様式形成過程を理解する上で重要です。特に原資料の伝承、写譜の差異、礼拝暦との関係性、テクスト作者の特定などは現在も研究が続いています。また、演奏実践研究の観点からは、声の選定(ボーイソプラノ対女性ソプラノ)、ピッチの選択、レチタティーヴォの伴奏法などが議論されています。

まとめ

BWV 22 は短いながらもバッハの宗教音楽における駆け出しの成熟をうかがわせる作品です。福音書の厳しい叙述を受け止めつつ、個人と共同体の信仰的応答を音楽的言語で表現するその手法は、後の大作へとつながる種子を含んでいます。初めて聴く方は、テクストと器楽の対話に耳を澄ませ、複数の録音を比較することで作品の多層性を楽しんでください。

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参考文献