バッハ:BWV28『感謝せん、今ぞ年は終わりゆく』—年末の礼拝に捧げる祈りと音楽的構造を読み解く
導入 — BWV28とは何か
ヨハン・ゼバスティアン・バッハ(J.S.バッハ)のカンタータ BWV28 は、ドイツ語題名「Gottlob! nun geht das Jahr zu Ende」(邦題例:「感謝せん、今ぞ年は終わりゆく」)で知られる教会カンタータです。1725年にライプツィヒで初演された作品で、年末・新年の礼拝にふさわしい「年の終わりに対する感謝と期待」を主題としています。作品番号 BWV(Bach-Werke-Verzeichnis)で28番にあたり、バッハがトーマスカントル(ライプツィヒ・トーマス教会音楽監督)として活動していた初期のライプツィヒ時代の主要なカンタータ群の一つに位置づけられます。
歴史的・宗教的背景
バッハは1723年にライプツィヒのトーマス教会のトーマスカントルに就任しました。就任後の数年間で教会暦に沿った数多くのカンタータを作曲し、年間を通じた礼拝音楽の供給を行っていました。BWV28 はその流れの中で、年の変わり目(週次の礼拝に付随する節目)に歌われるために作られた作品です。礼拝におけるテキストは通常聖書朗読およびその解説(説教)に呼応する内容で、年の終わりに過ぎゆく時を省み、神への感謝と来るべき日々への信頼を表明することが目的とされます。
作詞・初演日・スコアの概略
BWV28 のテキスト(詩)は通例のように世俗の詩人あるいは教会系の作詞者によるもので、正確な作者は明確に特定されていません。初演は1725年1月2日と伝えられており、これは年末・新年の礼拝週にあたる日付です(ライプツィヒでの史料に基づく)。編成はソプラノ、アルト、テノール、バスの各独唱者と混声合唱、弦楽器群および通奏低音を基本としており、楽器的な色彩を添える減少楽器(オーボエなど)を伴う箇所もあります。典型的なバッハの教会カンタータ構成に従い、冒頭の合唱を中心に、独唱アリアとレチタティーヴォが交互に配され、最後にコラール(賛美歌の四声和声)が置かれる構成を取っています。
テキスト(主題)の深掘り — 感謝と移ろい
本作の中心テーマは「感謝(Gottlob)」「過ぎ行く年」「神の守りと導き」などです。年の終わりという時点は信仰共同体にとって節目であり、過去の恵みを数え、未来の不確実性に対する信仰的確信を新たにする機会です。カンタータのテキストはこの宗教的・時節的な意味合いをストレートに表現しつつ、個人的な悔い改めや共同体的な祈りへの導入も行います。バッハはこのようなテキストに対して音楽的に「確信」「安堵」「希望」といった感情を付与することで、礼拝全体の精神性を高めました。
音楽的分析(構成と特色)
BWV28 はバッハの他のカンタータと同様に、以下のような音楽的特徴が見られます。
- 冒頭合唱の機能性:合唱は祝祭性と共同の感謝を示すための主要な舞台であり、対位法とホモフォニーを巧みに用いて、言葉の明瞭さと音楽の躍動感を両立させます。合唱の書法はリズム的に明快で、聴衆を儀式に導く役割を持ちます。
- アリアとレチタティーヴォの対比:独唱アリアではソロ楽器と声部が緊密に対話し、個人的な感謝や祈りの情緒を表現します。一方、レチタティーヴォは説教的・物語的機能を担い、テキストの論理を前に進めます。
- 楽器の色彩:弦楽器と通奏低音を核に、オーボエやソロヴァイオリンなどが場面ごとに色合いを付与します。バッハは色彩の変化で場面転換や感情の機微を描き分けます。
- 終結のコラール:最後は通常の四声コラールで締めくくられ、会衆参加型の祈りのなかで作品が完結します。コラールはメロディの親しみやすさとハーモニーの説得力で、礼拝的な安堵感を与えます。
代表的な演奏上の注意点(実演家・指揮者向け)
歴史的演奏慣習(HIP: Historically Informed Performance)を採るか、近代オーケストラ的アプローチを採るかで解釈は大きく変わります。HIPでは以下の点が議論されます。
- 声楽人数:合唱を多人数で歌うのか、各声部1人制(ソロ・コロ)で演奏するか。
- テンポとアゴーギクス:バッハのメトロノーム指定はないため、言葉の明瞭さと舞曲的性格に基づいたテンポ設定が重要。
- オブリガート楽器の奏法:オーボエやバロック弦楽器は音色が現代楽器と異なるため、装飾や音量バランスを慎重に配慮する。
- 通奏低音の取り扱い:チェンバロ、オルガン、リュート等をどう組み合わせるかで和声の厚みが変化する。
注目される演奏と録音
BWV28 はバッハのカンタータ群の中では比較的取り上げられる頻度は中程度ですが、いくつかの指揮者・アンサンブルによる注目録音があります。歴史的演奏運動の興隆以降、John Eliot Gardiner、Masaaki Suzuki(Bach Collegium Japan)、Ton Koopman などの手による全集録音で広く紹介されています。これらの演奏は解釈の違い(テンポ、合唱人数、装飾の有無)を聴き比べることで、BWV28 の多面的な魅力をより深く理解する助けになります。
テキストと説教的連関(礼拝での位置づけ)
BWV28 は礼拝の説教や聖書朗読と密接に結びついて用いられることが多く、テキストは説教を補強する形で信徒の心を整えます。年の節目においては、過去の恵みに対する感謝、日々の営みの儚さ、そして未来に向けた神への信頼という三重の主題が互いに響き合います。バッハの音楽はこの三層を音楽的に可視化し、説教と合奏・合唱が相互に支え合う礼拝芸術を実現します。
楽譜と研究資料
現存する楽譜資料はバッハ研究の重要な一次資料です。現代の校訂版(バッハ全集や新バッハ全集に基づく校訂)を用いることが、原典に忠実な演奏に寄与します。研究者は原典譜の筆跡、写譜の訂正、初演に関する史料(礼拝日程表や教会記録)を参照して、作品の成立過程や初演状況を慎重に検証しています。
まとめ — BWV28 が示すもの
BWV28『Gottlob! nun geht das Jahr zu Ende』は、年の終わりという時節にふさわしい宗教的・音楽的メッセージを持つカンタータです。合唱の祝祭性、ソロによる内的祈り、そして終結するコラールの共同的祈祷が一体となって、礼拝の核となる瞬間を形成します。演奏史を通じて解釈は多様に展開してきましたが、本作の本質は変わらず「感謝」と「信頼」にあります。現代の演奏家や聴き手にとっても、年の移ろいを感じる機会に深い共鳴を呼ぶ作品です。
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参考文献
- Bach Cantatas Website — BWV 28 "Gottlob! nun geht das Jahr zu Ende"
- IMSLP — Score: Cantata BWV 28
- Bach‑Digital — Online resource (検索でBWV28を参照)
- Wikipedia — "Gottlob! nun geht das Jahr zu Ende"
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