バッハ BWV574a(ハ短調)フーガ徹底解剖:史料・様式・演奏のすべて

序論:BWV574aとは何か

BWV574a(フーガ ハ短調)は、ヨハン・ゼバスティアン・バッハに帰せられるオルガン作品の一つで、カタログ番号に付される「a」は版や写本の異同、あるいは別稿を示すことが多い記号です。本稿では、現存する史料・楽譜の状況、主題と対位法の構造、演奏・登録(ストップ)上の考察、そして近現代の受容と録音史までを可能な限り総合的に整理します。なお、この作品は版や写譜本ごとに差異が見られるため、稿によっては「BWV574」と扱われるものと関連づけて論じられることがあります。

史料と来歴

BWV番号に「a」が付く作品群は、オリジナルの自筆譜(autograph)が欠如しているか、複数の写本が存在していることが多いです。BWV574aについても同様で、現存するのは18世紀ないし19世紀の写本や、後世の版を通じた伝承が中心です。写譜における稿差(音形の増減、装飾の相違、ペダルあるいは手の振り分けの差)が、作品の成立時期や作曲者による改訂をめぐる議論の起点となっています。

学術的には、写本群の系譜を慎重に追うことで原形に近い版を復元しようとする流れがあり、楽譜所蔵の一覧やデジタル・アーカイブ(国内外の図書館、Bach Digital、IMSLP等)が参考になります。ただし、BWV574aのような例では、完全な確証を得ることは難しく、作曲者本人の手による最終稿と断定できる資料は必ずしも存在しない点を留意する必要があります。

主題と形式:フーガの骨格

BWV574aのフーガは調性上ハ短調を採り、古典的なバロック・フーガの形式を踏襲しています。冒頭の主題(テーマ)はリズミカルに明確で、短い動機を繰り返しながら対位線と結びつくことで主題の輪郭が浮かび上がります。以下は分析上の主要点です。

  • 主題の性格:短い跳躍と階段的進行を併せもち、陰影のあるハ短調にふさわしい叙情性と推進力を兼ね備える。
  • 対位法:主題と対主題(カウンターサブジェクト)はしばしば模倣関係にあり、転調や反行(逆行)、増幅(augmentation)・縮小(diminution)などの対位的技巧が用いられる。
  • 調性構成:主調(ハ短調)と属調・並列長調や短調への短い迂回を通じてドラマティックな対比が生まれる。
  • エピソード:主題の断片を素材とするコモントーン的な橋渡し部分(エピソード)が挿入され、次の主題提示への準備と動的緩和を果たす。

対位法的特徴と作曲技巧

このフーガに見られる特徴的な作曲手法として、以下が挙げられます。

  • ストレッタ(主題の重ね):主題が複数声部で重なり合い、緊張度を高める場面が存在する。これにより終結部に向けての推進力が作られる。
  • 変形技巧:主題の一部を断片化して伴奏的に扱う、逆行や反行を用いるなど、バッハらしい対位的変奏が見られる。
  • ペダルの利用:オルガン作品として、左足(ペダル)による低声が主題提示や対位線の独立性を担い、全体の重心と色彩を支えている。

癖と独自性:他作品との比較

BWV574aをバッハの他のフーガと比較すると、次のような特性が浮かび上がります。第1に、主題の短さと明快さ、そしてそれがもたらす即時的な記憶性。第2に、エピソードの配置が緻密で、主題展開と和声推移のバランスが取れている点です。これらはバッハ晩年の大規模フーガ(例:BWV548など)とはスケール感が異なり、より凝縮された小品的な強度を持つ点で注目されます。

演奏上の留意点(指使い・登録)

オルガンで演奏する場合、演奏者は史実的な登録(ストップ選択)と楽奏法のバランスを取る必要があります。以下に実践的アドバイスを挙げます。

  • 登録の基本:ハ短調の暗さと深みを出すために、基音域のディアフォニックなストップ(8′、16′)を基調に、対比部分でリード系やミドル・ストップを加える。
  • 音量(ダイナミクス):フーガ構造に応じてパートごとの音色を変え、主題提示はやや突出させ、エピソードでは色彩を落として次の再現へ繋ぐ。
  • 指使いと合奏性:主題の明瞭さを保つために、滑らかな指替えを用いてフレージングを明確にする。ペダルは音価をしっかりと保持してリズムの骨格を支える。
  • ルバートの扱い:バロック演奏習慣では厳格なテンポ感が基本だが、インテンポの微妙な呼吸(フレージングに基づくアクセント)は許容される。

版と校訂:どの楽譜を選ぶか

BWV574aのような稿差が存在する作品では、信頼できる校訂版(近代版)を選ぶことが重要です。注記が豊富な版は写本間の差異を示し、演奏上の選択肢を提供してくれます。主要なコレクションや学術版(Bärenreiter、Henleなど)の校訂を参照し、版注で示される写本の出典や比較を確認してください。

録音と解釈の流儀

近現代の録音では、史料批判に基づくピリオド楽器的解釈(古楽復元派)と、近代的パイプオルガンを用いた伝統的解釈の双方が存在します。古楽派は軽やかなアーティキュレーションと明瞭な声部分離を重視し、近代派は豊かな残響とダイナミクスレンジを活かして劇的に仕上げる傾向があります。どちらの流儀も作品の異なる側面を照らし出すため、複数の録音を聴き比べることを推奨します。

受容史と学術的評価

BWV574aの受容は、原典主義の発展とともに変化してきました。楽譜学の視点からは稿差の解析が進み、現代の演奏家や編曲者はその差異を解釈の幅として取り入れています。学術書や解説書では、作品の位置づけ(小品的フーガとしての価値、対位法の技巧的側面)に焦点が当てられることが多いです。

実践的なリスニングガイド

作品を聴く際のポイントは次の通りです。

  • 第1提示:主題がどの声部で現れるか、そしてそれに続く対位線の処理を聴き取る。
  • エピソード:主題材料が断片化される瞬間に注目し、和声進行がどのように導かれるかを追う。
  • ストレッタとクライマックス:主題が重なり合う場面で各声部の独立性と和声の緊張を確認する。

まとめ

BWV574aフーガ ハ短調は、稿差や版の問題を含め、史料学的にも音楽的にも興味深い作品です。短い主題の中に高い対位法的密度を含み、演奏・解釈の幅が広いことが魅力となっています。演奏者は版選択、登録、フレージングのいずれにおいても意識的な選択を行うことで、作品の多様な表情を引き出すことができます。

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参考文献