バッハ(疑作)BWV575「フーガ ハ短調」徹底解剖:作曲史・構造・演奏の実践ガイド

概要 — BWV575とは何か

BWV575は一般に「フーガ ハ短調(Fuga in C minor)」として知られるオルガン作品です。長年にわたりヨハン・ゼバスティアン・バッハの作品目録に組み込まれてきましたが、作曲者については議論があり、真作と断定できない点があるため「疑作」として扱われることもあります。短いながらも充実した対位法と強いリズミックな推進力を持ち、オルガンレパートリーの中で演奏・録音ともに一定の人気を保っています。

出典と作曲者問題

BWV575に関する最大の学術的関心は、その起源と作者の特定にあります。現存する資料の多くが個人の写本や後代の写譜であるため、自筆譜が見つかっておらず、タッチや筆跡による直接的な裏付けが欠けています。そのため、様式的分析(和声進行・対位法の取り扱い・声部間の均衡など)と写本の伝承史に基づく検討が行われてきました。

20世紀以降の研究では、BWV575がバッハの晩年の典型的なフーガと完全に一致しない点が指摘され、写本の所在・筆写者の同定・同時代の作品との比較などを通じて疑問が提起されました。とはいえ、完全な反証もないため、演奏会や録音では依然バッハ作品として扱われることが多く、音楽学的には「附番はあるが注意して扱うべき作品」であるのが現在の通説です(後述の参考文献参照)。

形式と対位法的構造の詳細解説

フーガの全体的な長さは比較的短く、一般的に単一の主題(subject)を基礎に展開されます。主題はハ短調らしい暗さと決然としたリズムを備えており、短い跳躍と動機的な分割を含んでいます。以下は本作の典型的な構成要素です。

  • 主題(Subject):短いモティーフの反復を含み、低音と中声部での提示が印象的。ハ短調の性格を明確に表すために短調的な音階進行が用いられる。
  • 対主題(Countersubject):主題に対して補完的に機能する短い連続音型や動機的素材が対比を生む。
  • 調の処理:主調(ハ短調)から属調、並行調への短い転調や一時的な側調への移行を伴い、フーガ的エピソードで動機が分解される。
  • ストレッタ(Stretto)と模倣:クライマックス付近で声部間の重なりや短い応答が増え、緊張感を高める。

注目すべきは、作曲語法が厳密なバッハ後期の大フーガ(例えばBWV 548など)に比べて簡潔で直線的である点です。これが作曲者論争の一因ですが、同時に教会音楽の実用的な文脈(礼拝や小規模な礼拝内演奏)に適した短いフーガとも解釈できます。

和声・調性の特徴

ハ短調という調性は、作品に暗い色彩と重厚さを与えます。和声進行は一般的なバロック期の機能和声に則りつつ、短調特有の和声上の挿入(#6の扱い、減七の用法など)を用いて色彩的な転換を行います。副次的領域では減七和音の使用や半終止—完全終止の交錯が見られ、短いエピソードで対位素材が分割・配列されることで牽引力が生まれます。

演奏上の注意点(実践的ガイド)

オルガン作品としてBWV575を扱う際、次の点が演奏表現に直結します。

  • テンポ設定:フーガの明瞭さを保てる速さが理想。遅すぎると対位法の線が埋もれ、速すぎるとバスの輪郭が失われる。一般に中庸〜やや快速のテンポがよく合います。
  • レジストレーション(音色選択):主題の提示ははっきりした音色(例えばディアパソンやフルート系の中音)で行い、エピソードで色彩を変えると対比が生まれます。ハ短調の暗さを出すために基音群を重視し、ペダルはしっかりとした基礎音を与えてください。
  • フレージングとアーティキュレーション:対位法の各声部は独立性を保つ必要があります。レガートと短い分離を適宜使い分け、主題提示時は輪郭を強めに、経過句では柔らかく。
  • 足鍵(ペダル)の取り扱い:ペダル声部は線の安定を担うため、音価の長短をきちんと保持し、主題の提示や重要な模倣部分では音量や色をやや強めにする。

楽曲の位置づけと比較

BWV575は短めのフーガとして、バッハの大規模なフーガ群とは異なる実用性の高い作品群に位置づけられます。形式・対位法の扱いにおいて簡潔さが目立つため、同じ短調のフーガ(たとえばBWV543やBWV549など)と比較すると、造形の粗密や技巧の度合いに差があるように聞こえます。しかしこの「簡潔さ」は演奏上の明瞭さや礼拝文脈での使用を考慮したものと見ることもでき、単に質の劣る作品と断定するのは適切ではありません。

版と録音のおすすめ(入門から研究まで)

学術的には新バッハ全集(Neue Bach-Ausgabe:NBA)に基づく版や信頼できるウルテクスト(Urtext)が推奨されます。入手しやすい楽譜としてはIMSLPなどのパブリックドメイン版も参考になりますが、校訂の差や誤記に注意してください。

  • 推奨版:Neue Bach-Ausgabe(オルガン曲集)や各主要出版社のウルテクスト
  • 入門録音:伝統的なオルガン奏者によるもの(音色やレジストレーションの参考として複数聴き比べることを勧めます)
  • 研究用:写本系統や出典に関する注釈が付された版(学術版)

受容と現代の評価

BWV575は学術的には作曲者問題が議論される一方で、オルガン奏者や聴衆には簡潔で力強いフーガとして受け入れられています。礼拝での短い前奏・後奏や、コンサートでのプログラムの中庸な挿入曲として高い実用性があります。音楽学者はこの作品を通してバロック期の写譜文化や作品受容史を論じることが多く、作曲者判定のためのスタイル分析の事例としても参照されます。

まとめ — BWV575をどう聴き、演奏するか

BWV575は短いながら深い色彩を持つフーガであり、真作かどうかの問題を別にしても、対位法の基本を学ぶ上で有益な教材となります。演奏に際しては主題の輪郭、声部の独立性、レジストレーションの工夫が鍵です。学術的には写本伝承と様式的検討が継続課題であり、研究者はNBAや主要写本を参照しながら、作品史の解明を続けています。

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参考文献