深掘り:バッハ — BWV 593 「協奏曲第2番 イ短調」〜イタリア協奏曲の器で読むオルガン・トランスクリプションの魅力と演奏指針
序論 — BWV 593とは何か
BWV 593は、ヨハン・ゼバスティアン・バッハがオルガン用に編曲した協奏曲トランスクリプションの一つで、イ短調の協奏曲として知られます。バッハは若年期からイタリアの協奏曲様式、特にアントニオ・ヴィヴァルディの作品に強い関心を示し、多くの器楽協奏曲をチェンバロやオルガン用に移植しました。BWV 593はその流れの中に位置づけられ、ヴェネツィア・コンチェルトのリトルネッロ形式や対比的な楽想をオルガンという楽器に巧みに適応しています。
作曲年代と背景
BWV 593は一般にヴァイマール時代(1713年頃〜1714年)の作業とされます。この時期、バッハはイタリア協奏曲のスコアに触れ、ヴァイヴァルディ旋律の構造や和声進行を学び、自らの宗教曲・器楽曲の語法に取り込みました。オルガン版のトランスクリプションは、教会オルガニストとしての職務と、世俗的なコンチェルト様式への興味が交差するところで生まれたと考えられます。
出典・原曲についての注意点
BWV 593はイタリア協奏曲に基づく編曲ですが、しばしばヴィヴァルディを原曲に想定して論じられます。学術的には原曲の明確な同定が難しい場合もあるため、「ヴィヴァルディの特定作品の直訳」と断定する表現には注意が必要です。総じて、この作品はバッハがイタリア協奏曲の様式(リトルネッロと独奏部分の対比、ダイナミクスと色彩の明快さ)をオルガンの技法に移し替えた好例と評価されています。
楽曲構成と形式(概観と分析)
BWV 593は典型的な3楽章形式(速—緩—速)を備えます。楽章標記は楽譜や版によって揺れることがありますが、実践上は第1楽章のリトルネッロ的な「速」楽章、第2楽章の歌うような「緩」楽章、そして第3楽章の活発な「速」楽章という流れが確認されます。
第1楽章(Allegro等)
冒頭はリトルネッロ主題が現れ、リズムの明快さと短い動機の反復で協奏的な躍動を生みます。バッハはオリジナルの弦楽器素材を、左右の手鍵盤の交代配置や対位的な応答で再現します。和声進行は、序盤での短いカデンツや転調を含み、リトルネッロとエピソードの往復によって構成されます。オルガン特有の持続音やストップの選択がソロ/リピエーノの効果を左右します。
第2楽章(Larghetto等)
緩徐楽章では、歌唱的なソロ旋律が中低域の伴奏に乗り、装飾や伸ばしによって表情が作られます。ここでの和声は時に神秘的な色合いを帯び、転調や短いモティーフの展開により内省的な雰囲気が醸成されます。オルガン演奏では、フレージングとアーティキュレーション、微妙なテンポの揺らぎ(rubato的処理)を如何にコントロールするかが音楽性を決定します。
第3楽章(Allegro等)
終楽章はしばしばフーガ的あるいは擬似フーガ的要素を含む活発な動きで締めくくられます。リズムの跳躍や短いスケール的進行、そして和声的な強調でエネルギーを高め、最終リトルネッロに戻って確固たる終止へと導きます。オルガンではペダルの使用が低音を支え、手鍵盤は独奏的要素と伴奏的要素を瞬時に切り替えます。
編曲上の特徴(オルガン化の工夫)
- 声部配置:独奏パートに相当する旋律を右手または左手の上声に割り当て、伴奏/リピエーノ相当をもう一方の手及びペダルに振り分ける。
- レジストレーション:8'主体の柔らかな音色から、リトルネッロの明快さを出すために4'やリードを加えるなど、音色差で“ソロとリピエーノ”を表す。
- ペダルの役割:低音線の保持と推進力の確保。弦楽アンサンブルのコラール的基底を補填する。
- 装飾とオルナメント:人声や弦の装飾をオルガンで再現する際は、過度な飾りを避けつつフレーズ感を確保することが重要。
演奏・解釈のための実践的指針
演奏者が考慮すべき点をいくつか挙げます。
- 楽器理解:使用するオルガンのストップ構成(バーンハルト式、バロック・リードの有無など)に合わせてレジストレーションを緻密に設計する。
- テンポ設定:リトルネッロ部分は躍動感を保ちつつ、エピソードでは歌わせるテンポを確保する。第2楽章は特にフレーズの呼吸を明確に。
- フレージングとアーティキュレーション:弦楽合奏の“弓使い”を鍵盤上で如何に再現するかが鍵。短いイン・テンポのスラーや切りを工夫する。
- ペダルのバランス:低音が前へ出過ぎると混濁するため、中高音のソロ旋律が明瞭に浮かぶように配慮する。
版と参考楽譜
BWV 593の楽譜は複数の出版・校訂版が存在します。原典写本に基づく現代の新校訂版や、フリーでアクセス可能なIMSLP(国際楽譜ライブラリ・プロジェクト)上のファイルなどが利用できます。演奏用には信頼できる校訂(誤植・追加記号の判断が慎重に行われたもの)を選ぶことを勧めます。
作品の受容と意義
BWV 593は、単にヴィヴァルディ様式の写しではなく、バッハが自己の対位法的才能と和声感を用いてイタリアの素材を自国の語法と融合させた作品と評価できます。オルガンという教会楽器に協奏曲的語法を持ち込むことで、バッハは器楽表現の境界を広げ、後の作曲家に対する影響も残しました。教育的価値も高く、オルガン奏者の技術・音楽性の訓練に適したレパートリーとされています。
おすすめの聴きどころ(リスニング・ガイド)
・第1楽章:リトルネッロ主題の明快さとエピソードでの対位法的処理に注目。左右の手の掛け合いやペダル低音の推進力を追うと面白い。
・第2楽章:旋律線の歌わせ方、和声の微細な色調変化、テンポの呼吸を味わう。
・第3楽章:リズムの跳躍とフーガ的展開の瞬間的頂点を確認し、終結に向けた構築力を意識する。
録音・演奏参照(入門)
歴史的演奏や近現代のオルガニストによる録音が複数あります。総集的なバッハ作品録音を手掛けたオルガニスト(例:Helmut Walcha、Marie-Claire Alain 等)の全集録音には、BWV 593の解釈の参考になる演奏が含まれています。録音によってレジストレーションやテンポ感、アーティキュレーションの違いが明瞭なので、複数の盤を聴き比べると理解が深まります。
終章 — BWV 593を今日にどう響かせるか
BWV 593は、バッハがイタリア協奏曲の諸要素を受容しつつ、自らの音楽語法で再構築した作品です。オルガン奏者は歴史的演奏慣習を踏まえながらも、楽器固有の音色や現代の空間での鳴りを活かして演奏する余地があります。教会やコンサートホールで聴く際は、音響とレジストレーションが楽曲理解に直結する点を意識すると、この作品の多層的な魅力がより鮮明に感じられるでしょう。
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