バッハ:BWV 592 協奏曲第1番 ト長調 — オルガンによるヴィヴァルディ再解釈と演奏の指針

序論 — BWV 592とは何か

J.S.バッハのBWV 592は、一般に「協奏曲第1番 ト長調」として知られるオルガンのための協奏曲風作品です。本作はバッハによるイタリア様式の協奏曲のオルガン編曲の一例とされ、彼がヴァイオリン協奏曲や合奏協奏曲(特にアントニオ・ヴィヴァルディや当時流行していたイタリア人作曲家の作品)を鍵盤楽器用に移し替えた一連の試みの中に位置づけられます。作品は典型的な三楽章形式(速—緩—速)で構成され、器楽合奏のテクスチュアをオルガンの音色と手足の独立した運指で再現することを目指しています。

歴史的背景 — ワイマール時代の学習と模倣

BWV 592を含む一群の協奏曲編曲は、バッハがワイマール(1708–1717頃)に在職していた時期に作られたと考えられています。この時期、バッハはイタリア音楽に強い関心を抱き、特にヴィヴァルディの《調和の霊感(L'estro armonico)》などに触発されました。バッハは単に原曲を再現するだけでなく、鍵盤の特性を活かして対位法的要素やペダルによる低音の強化を行い、オルガンという独自の語法へと移し替えました。

楽曲構成と分析

BWV 592は三楽章から成り、基本的なコンサート形式に従います。以下に各楽章の特色を概説します。

  • 第1楽章(速い): リトルネッロ形式が基盤となり、力強い主題と頻繁な対話が繰り広げられます。オリジナルの弦楽合奏的素材は、手鍵盤の対位的な掛け合いや、短いモティーフの反復によって表現されます。リズムの明瞭さとアクセントの付け方が曲の推進力を生みます。
  • 第2楽章(緩やか): 歌唱的で内省的な緩徐楽章。バッハは旋律を簡潔に提示し、和声の動きや経過音で豊かな色彩を与えます。オルガンでは音色の静かな登録を用いることで、弦楽器の持つ柔らかさに近い表現が可能です。
  • 第3楽章(速い): 興奮した終楽章で、舞曲的・跳躍的な要素が目立ちます。フィナーレらしい活気があり、対位法的な技巧とリズム感の良さが求められます。オルガンのペダルと手鍵盤の分離を効果的に用いることで、合奏の躍動感を再現できます。

編曲上の特徴とバッハの工夫

バッハは原曲の弦楽器的なテクスチュアを維持しつつ、オルガンならではの表現へと変換しています。具体的には以下のような工夫が見られます。

  • 手鍵盤による合奏声部の分割と、ペダルを用いた低音の強化。これにより、オーケストラのコントラバス群の役割をオルガンのペダルが担います。
  • トリルや装飾音を抑制し、イタリア協奏曲のリズミカルな明瞭さを損なわないようにする一方で、バッハならではの対位法的挿入を行うことがある点。
  • 登録(ストップ選択)により弦楽合奏やコンサートの音色対比を再現する試み。フルオルガンではなく、手鍵盤を分けて色彩の変化をつけることが望まれます。

演奏と解釈のポイント

演奏者が留意すべき点は多岐にわたりますが、主要なものを挙げます。

  • フレーズの構築: 弦楽器由来のフレーズはブレスやフレージングを鍵盤で如何に表現するかが課題。短いモティーフのつながりを意識して自然な呼吸感を作る。
  • リズムの明確さ: 協奏曲的リトルネッロや対話部分ではリズムを鮮明にし、アクセントと語尾の処理を明瞭にする。
  • 登録選択: 第2楽章では柔らかい合成音や弱いリードで歌わせる。第1・第3楽章では対比を強め、必要に応じて明瞭なフットに切り替える。
  • ペダルの使い方: 低音を支えるだけでなく、旋律線の輪郭を明瞭にするための独立性が求められる。足のタッチも多様に変えること。

楽器・登録に関する実践的助言

オルガンの種類や設置環境によって適切な登録は大きく変わりますが、一般的なガイドラインは次の通りです。

  • 暖かみのある弦楽器的音色(例えば薄い8'と2'の組み合わせ)を手鍵盤の主要音色に用いる。
  • 対位的な声部が明瞭になるよう、手鍵盤で小さなリード(またはスウィートなフルート)を併用する。
  • 第2楽章は控えめなリードとソフトな8'で歌わせ、装飾は最小限に留める。
  • ペダルは太く深い16'や8'を中心に、低域の輪郭を支えるようにする。急速なパッセージでは短めのアタックを意識する。

他のBWV編曲との比較

BWV 592は、BWV 593–596などのバッハによる他の協奏曲編曲群とともに語られることが多いです。各編曲は原曲の性格や編成に応じて異なる工夫が施されていますが、共通しているのはバッハの“学習としての模倣”と“創造的再構成”の姿勢です。中にはヴィヴァルディ原曲に極めて忠実なものもあれば、バロックの対位法的手法を強めて独自色を出すものもあります。

録音と参考となる演奏

BWV 592はソロオルガンのレパートリーとして多く取り上げられてきました。ヘルムート・ワルヒャ、マリー=クレール・アラン、ギリアン・ワイアー、トン・クープマン(チェンバロ演奏含む)など、歴史的に評価の高い録音が多数あります。演奏ごとに登録やテンポ、装飾の扱いが異なるため、複数録音を比較することで新たな解釈が得られるでしょう。

総評 — なぜBWV 592を演奏/聴くべきか

BWV 592は、バッハが外来の様式をどのように取り込み、自らの語法と融合させたかを知るうえで非常に示唆に富む作品です。オルガンという固定された楽器で〈協奏感〉を生み出す技術、対位法と和声感覚の巧みな統合、そして演奏者の解釈を深く問う点で魅力的です。コンサートや録音で耳にする際は、原曲の弦楽的要素とバッハの鍵盤技法の折衷を意識して聴くと発見が多いでしょう。

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参考文献