バッハ BWV 669–689:21のコラール前奏曲を読み解く — 歴史・様式・演奏の実践ガイド

序論:BWV 669–689 とは何か

BWV 669–689 に割り当てられた21曲のコラール前奏曲は、ヨハン・ゼバスティアン・バッハのオルガン作品群の中で重要な一群です。これらは生前に一括して出版されたわけではなく、様々な写本・楽譜伝承を通して受け継がれてきました。そのため作曲年代や成立事情は一律ではなく、初期から晩年にかけての要素が混在していることが特徴です。本稿では、これら21曲の音楽的特徴、典礼的役割、演奏上の注意点、扱う際の実践的アドバイスまで、可能な限りファクトチェックを行いながら掘り下げます。

歴史的背景と写本伝承

バッハのコラール前奏曲は教会音楽の実用性と作曲家の創意が重なったジャンルです。BWV 669–689 の各曲は、教会での前奏・応答・短い瞑想曲として用いられることを想定して書かれているものが多く、形式的には装飾的なカントゥス・フィルムス(主題旋律の装飾)、合唱風の和声進行、トリオ的な対位法など複数の手法が見られます。写本伝承は散在しており、ネウマイスター(Neumeister)や他の地元写本、弟子や崇拝者の写譜などに頼る部分が多いため、校訂者は複数資料を突き合わせて版を作成します。

音楽的様式の多様性

この21曲群は様式的に多様です。次のような主要なタイプが見られます。

  • 旋律装飾型:コラール旋律を上声や内声で装飾して示すタイプ。歌詞を想起させるフレージングや装飾が聴きどころです。
  • 足鍵盤(ペダル)に主題を配する型:主旋律を足鍵盤に置くことで重厚な響きを作るもの。典礼的な荘重さを強調します。
  • 三声/四声のトリオ風型:各声部が独立して対位法的に進行し、器楽的な扱いが顕著なもの。
  • 和声的簡潔型:短く簡潔にコラールの進行を示すもの。実用性が高く、礼拝で即座に使われることを想定している場合が多いです。

これらの様式はしばしば一曲の中で混在し、バッハはコラールのテキストや典礼的役割に合わせて効果的に手法を選択しました。

代表的な分析の視点(楽曲一般)

ここでは個別の番号に深く踏み込まず、BWV 669–689 に共通する分析視点を挙げます。

  • コラール旋律の扱い:上声に現れるか、内声・下声に配置されるか、または分散されたモチーフとして現れるかを確認します。旋律が原形で現れる場合はその調性感と和声配置、装飾される場合は装飾語句の種類(トリル、モルデント、急速なトレモロ的連符など)を注視します。
  • 対位法的処理:随所に見られる模倣、人声模倣、フガート風の入りなどにより、コラールを単なる伴奏ではなく有機的に展開します。対位法の展開法(逆行、拡大、縮小など)を追うと構造理解が深まります。
  • 和声と転調:短い曲の中でも巧みな和声装飾や臨時記号による色彩的な転調が用いられることがあり、曲の表情やテキスト的関連を示唆します。
  • リズムとテキスチャ:マナーや装飾の違いから、滑らかな伴奏型(アルベルティ風の分散和音)と切迫した刻み型(スタッカート的な付点)が対比されます。これらが典礼上の“説得力”や“瞑想”の性格を生み出します。

演奏解釈の実践的ガイド

バッハのコラール前奏曲を演奏する際の具体的なポイントを挙げます。

  • 楽器選定と調律:原理的には当時の平均律・中全音律・鍵盤の調律状態を想定すると良いでしょう。曲によっては中全音律の色彩が有効で、特定の調の響きが際立ちます。現代のパイプオルガンやコンサート用ロマン式オルガンで演奏する際は、特に色彩と対比が失われないよう登録(ストップ)選びを行ってください。
  • 登録(ストップ):旋律を明確にする場合は上声にソロ系のストップ(トレブルフルートやプリンシパル)を与え、伴奏には柔らかなオープンフルートやリードを控えめに配します。ペダルに主題がある場合は重めのストップ(16'や8'フルート)を用いて重厚感を出します。
  • テンポとフレージング:典礼的な用途を意識して過度に遅くならないように。テンポは旋律の語りと伴奏の動きのバランスで決めます。フレージングは歌の呼吸を念頭に、フレーズの頭をやや明示しつつも過度に切らないことが大切です。
  • 装飾と即興:バッハの手稿では装飾記号が付されている場合と無い場合があります。原典が装飾を指定していない箇所では、時代的センスに基づいた控えめな装飾や連結的な通奏低音の補強が適切です。即興的な装飾はテクスチャを損なわず調和を壊さない範囲で行います。
  • ペダルの取り回し:特にペダルに旋律がある場合は、足の指使いと踵の使い分け、早いパッセージでは必要に応じてハンドオフ(手と足の音色バランスの調整)を行います。古楽器の演奏慣習に倣うと、足鍵盤の独立性を生かす指導法が有効です。

版と録音の薦め

現代の演奏・研究には信頼できる校訂版を用いることが重要です。代表的な校訂は歴史的資料に基づく Urtext 系(例:Bärenreiter や Henle)です。録音ではヘルムート・ワルヒェ(Helmut Walcha)、マリー=クレール・アラン(Marie-Claire Alain)などの旧来の名演が参照に値します。近年では歴史的奏法に基づいた演奏や、現代オルガンでの解釈も多く出ており、複数の録音を比較することで新しい発見が得られます。

礼拝と現代の聴衆に対する意義

Bach のコラール前奏曲は元来、礼拝の歌を導入するための機能を持ちます。現代のコンサートにおいても、これらは短く濃密な音楽ドラマを提供し、宗教的文脈を超えて普遍的な精神性や和声感覚を伝えます。演奏者はヒストリカル情報と音楽的直観の両方を持ち寄り、聴衆に対してコラールのテクスチャと精神をわかりやすく提示することが求められます。

まとめ:BWV 669–689 を学ぶためのステップ

学習者・演奏者への実践的な順序を示します。まず原典(複数写本があれば比較校訂)を読み、旋律の位置と和声進行を把握します。次に装飾と対位法的要素を詳細に分析し、最後に楽器に合わせた登録とテンポ設定で実際に音にします。録音・版を比較し、礼拝やコンサートでの役割を想定して解釈を固めましょう。

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参考文献