バッハ BWV977 協奏曲第6番 ハ長調 — 楽曲解説と演奏ガイド

バッハ:BWV977 協奏曲第6番 ハ長調 — 概要

BWV977は、ヨハン・セバスティアン・バッハによる鍵盤用協奏曲群(BWV972–987)に含まれる1曲で、通称「協奏曲第6番 ハ長調」と呼ばれます。これらの作品は原則としてヴィヴァルディなどのイタリア・コンチェルトを鍵盤向けに編曲したものが多く、バッハの作曲技法や編曲術、器楽間の語法を学ぶうえで重要な位置を占めます。しかしBWV977については、原曲(協奏曲モデル)が明確に特定されていないため、“鍵盤独奏のための協奏風作品”として扱われることが多いです。

成立と歴史的背景

バッハが協奏曲を鍵盤用に編曲した時期は、主にヴァイマール時代(1713–1714頃)およびその後の時期に集中すると考えられています。これらの編曲は、イタリア式のコンチェルト体裁を鍵盤に取り入れることで、バッハ自身の和声感覚や対位法的処理を実験・発展させる場となりました。BWV972–987はその集積であり、BWV977もその一枚としてバッハの様式統合の一端を示しています。

楽曲構成(形式)と楽想の特徴

BWV977は典型的な協奏曲形式にならって三楽章構成(急—緩—急)をとるとされます。以下に各楽章の大まかな特徴を示します。

  • 第1楽章(速いテンポ):リトルネル(リトルネット)と呼ばれる協奏曲のリトルネル的体裁を踏襲する傾向があり、力強い主題提示と連続するパッセージで始まります。鍵盤のために編曲されたことで、原曲のオーケストラ的リフレイン(リトルネル)が手のフィガチュアで表現され、両手交互の分散和音やアルペッジョでオリジナルの対話が再現されます。
  • 第2楽章(ゆっくりした歌):歌謡的で内省的なアリア風の楽章で、和声はシンプルながらもバッハ的な和声展開や装飾が施されます。鍵盤独奏としての演奏では、装飾音や伸ばしの処理、響きの選択(ハープシコードのレジストレーションやピアノでのタッチ)が表現上のポイントになります。
  • 第3楽章(速く躍動的に):リズミカルでダイナミックな終楽章。バロック期の舞曲的な要素やシーケンス、対位的な模倣が組み合わさり、エネルギッシュに締めくくられます。

和声と対位法—注目すべき分析ポイント

BWV977では、バッハが鍵盤用に編曲する際にオーケストラの要素を鍵盤的技巧に変換する手法が見て取れます。具体的には:

  • リトルネル形式のリフレイン主題を鍵盤で再現するための分散和音や内声の扱い。
  • 短い動機の模倣と転調を巧みに用いたモジュレーション(とくに属調や平行調を利用した流動的な転調)。
  • 和声進行の中で対位法的な挿入句が現れ、伴奏的役割と旋律的役割を鍵盤が同時に担う点。

これらはバッハの“複合的声部観”が鍵盤独奏においてどのように実現されるかを示す好例です。

演奏上の注意点(ハープシコードとピアノの違い)

BWV977は歴史性能(ハープシコード、クラヴィコード)とモダン(フォルテピアノ、ピアノ)で大きく演奏解釈が変わります。主要な注意点は以下の通りです。

  • 音色とレジストレーション:ハープシコードでは音量変化が限定されるため、アーティキュレーションとレジストレーション(ストップの切り替え)でフレーズの形を作ります。ピアノではダイナミクスを用いて呼吸感や応答を表現できますが、バロック語法に忠実なタッチと短いリリースで軽やかさを維持する必要があります。
  • 装飾と詠唱性:第2楽章の歌う部分では、バロックの装飾(トリル、モルデント、アグレーション)の位置と長さを楽譜や当時の慣習に基づいて選択することが重要です。過度なロマン的処理は原曲の対位感を損なうことがあります。
  • テンポとリトルネルの扱い:第1楽章と第3楽章のリトルネル的反復部分は、テンポ感の一貫性と内部的な推進力の両立が求められます。リトルネルの主題を“刻む”のか“歌う”のかで表情が変わるため、意図を明確にしましょう。

楽譜と校訂版の選び方

BWV977に取り組む際は、原典版(Birgit, Neue Bach-Ausgabe などの校訂)に基づく楽譜を手元に置くことを勧めます。IMSLPなどで公開されている写本・初版資料と照合すると、バッハ自身の筆写の差異や後世の写譜者の改変が見えることがあります。特に装飾記号や和声の省略部分は校訂者の補筆が入るため、史料に当たることが解釈の助けになります。

聴きどころ・鑑賞のポイント

BWV977を聴く際には、次の点に注意すると作品理解が深まります。

  • 第1楽章の主題提示と各エピソードの関係—どの動機が中心的に動いているか。
  • 第2楽章の歌いまわし—単純な和声の中に潜むハーモニック・カラーの変化。
  • 第3楽章のリズム処理—シーケンスや模倣の連続がどのように構造を形成しているか。

BWV977の位置づけと意義

BWV977は、バロック期のオーケストラ奏法を鍵盤に移植するというバッハの実験精神を示す作品群の一部です。原曲が不明な点はあるものの、鍵盤上での音色的・対位的探求という観点からは非常に示唆に富んでいます。さらに、これらの鍵盤協奏曲は後のクラシック音楽における協奏曲概念の受容と発展に間接的に影響を与えたと考えられます。

実践的な練習アドバイス

  • 第1楽章:短いフレーズごとに手の重量移動とタッチを決め、分散和音の明瞭さを優先する。
  • 第2楽章:旋律線を第一に据え、内声を“歌わせない”ように注意。装飾は文脈に応じて入れる。
  • 第3楽章:リズムの輪郭を鋭くし、対位的な模倣箇所では各声部の輪郭を明確にする。

参考的な録音と解釈(選び方の目安)

歴史奏法(ハープシコード)による解釈はリズムの軽快さとタッチの多様性が魅力です。一方、モダン・ピアノの録音は色彩的なダイナミクスとサスティンを生かした解釈が可能です。聴き比べることで、バッハの対位法がどのように表情を変えるかを体感できます。

まとめ

BWV977は「協奏曲第6番 ハ長調」として扱われる鍵盤用作品で、原曲の特定が難しいものの、バッハの編曲技法と鍵盤表現の幅広さを示す重要な一作です。演奏・鑑賞の双方において、リトルネル形式の構造、対位的処理、装飾とタッチの選択が鍵となります。史料にあたって得られる情報と、さまざまな録音を比較することが理解を深める近道です。

エバープレイの中古レコード通販ショップ

エバープレイでは中古レコードのオンライン販売を行っております。
是非一度ご覧ください。

エバープレイオンラインショップのバナー

また、レコードの宅配買取も行っております。
ダンボールにレコードを詰めて宅配業者を待つだけで簡単にレコードが売れちゃいます。
是非ご利用ください。
https://everplay.jp/delivery

参考文献