半音のすべて:定義・周波数・調律・聴覚の科学
半音とは — 基本定義と音楽上の位置づけ
「半音(はんおん)」は、西洋音楽で用いられる12平均律を基準にしたときの最小の音程単位の一つで、隣接する鍵盤(白鍵と黒鍵など)やフレット間の移動を意味します。12平均律(12-TET)では、1オクターブを12の等しい対数間隔に分け、それぞれを半音(semitoneまたはhalf step)と呼びます。音高の比率、周波数の関係、調律法によって「半音」の大きさは厳密には変わりますが、現代の多くの楽器や音楽実践では12平均律の定義が標準です。
12平均律における半音の数学(周波数比とセント)
12平均律では、1半音の周波数比は2^(1/12)(およそ1.059463094)です。これは1オクターブ(周波数比2:1)を12等分した結果で、任意の音fから半音上の音は f × 2^(1/12) という関係になります。セント(cent)は音程の細かな差を示す単位で、1オクターブを1200セントに分割したものです。したがって12平均律の半音は100セントに相当します。
例:A4 = 440 Hz の1半音上、A#4(またはBb4)の周波数は 440 × 2^(1/12) ≈ 466.1637616 Hz です。MIDIノート番号と周波数の関係は次の式で与えられます:f(n) = 440 × 2^((n − 69)/12)。これにより、任意のMIDIノート番号nから周波数が計算できます。
純正律・ピタゴラス律・平均律の違い — 半音は一様ではない
「半音」と一口に言っても、歴史的・理論的には複数の種類があります。主要な例を挙げると:
- 12平均律(12-TET):全ての半音が等しい(100セント)。現代の鍵盤楽器や多くの西洋音楽で標準。
- 純正律(Just intonation):音程が簡単な整数比で表されるため、長三和音などが非常に安定するが、鍵盤上の全ての半音が等しいわけではない。純正律では〈長2度と短2度〉などの差が生じ、一般にダイアトニック(隣接する音)半音は16/15(約111.73セント)で表されることが多く、クロマティック半音は25/24(約70.67セント)といった不等分が見られる。
- ピタゴラス律(Pythagorean tuning):完全5度(3:2)の連続から得られる体系で、ここでは“大きい半音(apotome)”と“小さい半音(limma)”が存在します。apotome(2187/2048)は約113.685セント、limma(256/243)は約90.225セントで、平均律の100セントとは異なる分配になります。
これらの違いは、和音の純度や転調のしやすさ、演奏表現に直接影響します。例えば純正律では特定の調で和声が非常に美しく響く一方、別の調に転調すると「ずれ」が顕著になるため、鍵盤楽器では平均律が選ばれる歴史的理由の一つです。
ダイアトニック半音とクロマティック半音
音楽理論では同じ“半音”でも「ダイアトニック半音」と「クロマティック半音」という区別があります。ダイアトニック半音は音階内の隣接音(例えばCからDへの間にある半音的な関係)、クロマティック半音は同名異名(CからC#やDbへ)の変化を指します。平均律では両者は同一(100セント)ですが、純正律やピタゴラス律では異なる長さになります(前節の16/15と25/24など)。この差が和音や旋律の色合いに微妙な違いを生み出します。
演奏上・楽器設計上の半音
ギターのフレットは12平均律を基準に等比的に配置され、各フレット間の周波数比は2^(1/12)です。ピアノの鍵盤も同様に平均律で調律されることが一般的です。一方、声楽や弦楽器(バイオリンなど)では演奏者が自由にピッチを調整できるため、純正律に近い音程でハーモニーを作ることができます。これにより、和声音の純度を高める際に微妙な半音以下のズレ(数十セント単位)の調整が行われます。
また電子音響の世界では、MIDIや音源のチューニングを変えることで半音や微分音(マイクロトーン)をプログラム的に扱えます。MIDI標準は12平均律を前提としますが、MIDIチューニングメッセージやソフトウェアによって任意の周波数割り当ても可能です。
聴覚と半音の知覚 — 人はどれだけ小さな差を聞き分けられるか
音高差の可聴差(Just Noticeable Difference, JND)は条件によって大きく変わります。単純な純音(サイン波)では訓練された聴取者が1〜2セント程度の差を識別できることが報告されていますが、複雑な楽音や短い音では5〜10セント、場合によってはそれ以上の差が必要になることがあります。一般に周波数が高くなると相対的な差の検出は難しくなる傾向があり、周波数の比(対数差)で表現するセントはこの性質を扱うのに適しています。
半音と音楽表現 — 色彩、緊張、転調
半音は音楽表現において非常に重要な役割を持ちます。半音上行や下行の動きは和声上の緊張感や解決を作り出し、クラシック、ジャズ、ポップス、ロックなど多くのジャンルで決定的な機能を果たします。例えば、半音上の和音進行は増や減の感覚を生み、ブルースやジャズではブルーノート(しばしば微妙に平均律からずれた半音に相当)を用いることで独特の表情を作ります。
マイクロトーンと半音のさらに先へ
半音より小さい音程(例えば1/4音=50セントなど)を扱う音楽は「マイクロトーナル(微分音)」と呼ばれ、トルコ音楽、インド古典音楽(shrutiの概念)や現代実験音楽で重要です。西洋の12平均律に慣れた耳には異質に感じられることもありますが、これらは半音という概念を相対化し、より細かな音程の世界へと拡張します。
まとめ — 実用上のポイント
- 現代の多くの音楽では「半音=12平均律での100セント(周波数比2^(1/12))」が標準だが、歴史的・理論的には複数の「半音」が存在する。
- 純正律やピタゴラス律では半音が均等でなく、ダイアトニック半音やクロマティック半音として区別される(例:16/15 ≈111.73セント、25/24 ≈70.67セント)。
- 楽器・演奏法によっては半音以下の調整(数セント単位)が表現に不可欠であり、これが和声の純度や音色に影響する。
- 聴覚の感度は条件に依存するため、半音の微妙な違いをどう扱うかは作曲・演奏・調律の文脈に応じて決めるべきである。
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参考文献
- 半音 - Wikipedia(日本語)
- 12平均律 - Wikipedia(日本語)
- Cent (music) - Wikipedia(英語)
- Just intonation - Wikipedia(英語)
- Pythagorean tuning - Wikipedia(英語)
- MIDI Tuning Standard - Wikipedia(英語)
- Psychoacoustics - Wikipedia(英語)
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