Dgraphとは|GraphQL対応の分散グラフDB — 特徴・アーキテクチャ・導入ポイント

Dgraph とは — 概要

Dgraph(ディーグラフ)は、Dgraph Labs が開発する分散ネイティブのグラフデータベースです。Go 言語で実装され、RDF ライクなトリプル(subject, predicate, object)モデルをベースにしつつ、UID を中心としたノード/エッジ表現を採ります。設計上は水平スケーラビリティと低レイテンシを重視しており、クラスタ運用、レプリケーション、トランザクションをネイティブにサポートします。公式ドキュメントやクライアントライブラリが充実しており、GraphQL(および Dgraph 独自の DQL / 旧称 GraphQL+-)を使った問い合わせが可能です。

主な特徴

  • 分散アーキテクチャ:クラスタ化して高可用・スケールアウトが可能
  • DQL(Dgraph Query Language)と GraphQL のサポート:生のグラフクエリと標準的なGraphQL API 双方に対応
  • トランザクションと整合性:Raft によるコンセンサスやトランザクション処理を提供
  • 柔軟なスキーマと多様なインデックス:全文検索や地理情報、数値・日時インデックス等に対応
  • 多言語クライアント:Go、Java、Python、JavaScript などの公式クライアント

アーキテクチャ概要

Dgraph のクラスタは大きく二種類の役割ノードで構成されます(典型的な構成)。

  • Zero(クラスタ管理):クラスタのメタデータ管理、シャード(tablet)割り当て、ノードのメンバ管理などを担当します。
  • Alpha(データノード):実際のデータ保存・クエリ処理を行います。各 Alpha は Raft グループに属し、リーダーを通じて書き込みの整合性を担保します。

データは predicate(述語)単位でシャード(tablet)分割され、Zero により各 tablet がどの Raft グループ(複数の Alpha)に割り当てられるか決まります。内部ストレージとしてはバリューストア(BadgerDB などのキーバリューストア)を用いるのが一般的です。

データモデルとスキーマ

Dgraph の基本はトリプル(UID, predicate, value/UID)です。スキーマで各 predicate の型やインデックス、トークナイザを定義できます。たとえば名前やメールは文字列、年齢は int、位置情報は geo として定義します。Dgraph には型(type)定義を持たせることもでき、GraphQL スキーマと連携して API を自動生成することも可能です。

クエリ言語:DQL と GraphQL

Dgraph にはネイティブなクエリ言語(DQL、以前は GraphQL+- と呼ばれていた)と、ユーザフレンドリーな GraphQL の両方が用意されています。DQL はグラフ横断的な再帰的取得や複雑なパターン照合に強く、GraphQL は既存の GraphQL エコシステムと統合しやすい特徴があります。

DQL(例):

{
  me(func: eq(name, "Alice")) {
    uid
    name
    friend {
      uid
      name
    }
  }
}

GraphQL(例、Dgraph が自動生成したスキーマを想定):

query {
  queryPerson(filter: { name: { eq: "Alice" } }) {
    id
    name
    friend {
      name
    }
  }
}

また、Dgraph は upsert(存在確認してから挿入/更新)や条件付き更新、トランザクション API をサポートしており、複雑な更新操作を安全に行えます。DQL の upsert ブロックは実務でよく使われます:

{
  query {
    v as var(func: eq(email, "alice@example.com"))
  }
  mutation {
    set {
      uid(v)  "Alice" .
      uid(v)  "alice@example.com" .
    }
  }
}

インデックスと検索機能

Dgraph は多様なインデックスタイプを提供します。主なものは:

  • exact(完全一致)
  • term / fulltext(トークンベース / 全文検索)
  • trigram(曖昧検索や部分一致に有用)
  • int, float, datetime(数値や日時検索)
  • geo(地理空間検索)
  • password(ハッシュ保存・照合用)

組み合わせにより、グラフ横断の高速なフィルタリングや全文検索が可能です。全文検索は内蔵のトークナイザやフィルタでカスタマイズできます。

トランザクションと整合性

Dgraph は Raft を用いたコンセンサスにより、各 Raft グループ内部でのリーダー主導の書き込みを行い、整合性を担保します。トランザクションは分散環境下でも整合性を維持する設計で、Dgraph の API を通じて複数ノードにまたがる更新を扱えます。遅延やコンフリクトの取り扱いについては、スキーマ設計やパーティショニング戦略の影響を受けます。

運用・デプロイ

Dgraph は開発用途の単一ノード構成から、本番向けのマルチノードクラスタまで柔軟に展開できます。公式が提供する Docker イメージや Helm チャート、Kubernetes Operator による運用が可能です。バックアップ、スナップショット、メトリクス、監視のためのエクスポート機能やエンタープライズ向けの追加機能(アクセス制御、暗号化、外部認証連携など)も用意されています。

ユースケース

  • ナレッジグラフ/セマンティック検索:エンティティと関係性を自然に表現できる
  • ソーシャルグラフ:フレンド関係やフォロー、推薦のための高速なグラフ走査
  • レコメンデーション:ユーザ・アイテム間の多次元的な関連性解析
  • 詐欺検出・ネットワーク解析:パス探索やコミュニティ検出に強み
  • メタデータ管理:ドキュメントやサービスの関係性を管理

他のグラフDB と比較したときの特徴

  • Neo4j に比べて水平スケーリングを重視し、クラスタ全体での分散運用を前提とする点が大きな違いです。
  • TigerGraph は並列グラフ処理(GSQL)に強いのに対し、Dgraph は低レイテンシなクエリ応答と GraphQL 連携を重視します。
  • JanusGraph のようにバックエンド KV(Cassandra / HBase / RocksDB 等)に依存する実装とは異なり、Dgraph は一体型のデータノード設計でシンプルに運用できます。

注意点・運用上のポイント

  • スキーマ(predicate 単位)の設計がパフォーマンスに直結するため、アクセスパターンを元に適切なシャーディング/インデックス設計を行う必要があります。
  • 大規模クラスタでは Raft のトポロジーやレプリケーション係数を慎重に決める必要があります。
  • GraphQL と DQL(ネイティブ)の使い分け:既存のフロントエンドや GraphQL エコシステムと統合したい場合は GraphQL、自前で複雑なグラフ探索を行う場合は DQL が適しています。
  • 運用ツール(バックアップ/リストア、監視、アップグレード手順)を事前に検討しておくと安全です。

まとめ

Dgraph は「分散」「低レイテンシ」「GraphQL サポート」を強みとするグラフデータベースです。ネイティブな DQL による高度なグラフ探索と、GraphQL を通じたモダンな API 提供の両方を実現できるため、ナレッジグラフ、レコメンド、ソーシャル系のアプリケーションに適しています。一方で、適切なスキーマ設計やクラスタ設定、監視運用が重要であり、導入前にアクセスパターンを洗い出すことが成功の鍵になります。

参考文献