パンナラール・ゴーシュが切り開いたバンスリーのコンサート楽器化と歌唱表現—ヒンドゥスターニー古典音楽の革新者
パンナラール・ゴーシュ(Pannalal Ghosh)——概要と歴史的意義
パンナラール・ゴーシュ(1911–1960)は、ヒンドゥスターニー古典音楽においてバンスリー(竹笛)をソロのコンサート楽器として確立した最も重要なパイオニアの一人です。従来「民俗楽器」と見なされがちだったバンスリーに、ヴィルトゥオーソ的な技巧と叙情的な歌唱表現(gayaki ang)を持ち込み、コンサート・ホールで通用する表現力と音域を与えました。その結果、以降の世代のフルート奏者たちにとってバンスリーが主要な表現手段になっていきます。
生涯の概略
- 出自と時代背景:20世紀前半に生まれ、植民地期から独立直後のインド文化復興の文脈で活躍しました。バンスリーは地方や宗教音楽での伝統楽器でしたが、彼はそれを古典演奏に昇華させました。
- 活動領域:コンサート演奏のみならず、映画音楽や舞踊の伴奏、放送(ラジオ)など多方面で活動し、バンスリーの音色を一般層にも普及させました。
- 評価と受容:生前から「モダン・バンスリーの祖」として高い評価を受け、没後も多くの楽手に影響を与え続けています。
技術的・楽器的な革新
パンナラールが成し遂げた最大の貢献は、楽器設計と演奏技法の両面にわたる実践的な改良でした。
- ロング・バンスリーの導入:従来より長く、太い管径のバンスリーを採用・改良することで低音域(低いサ)まで響かせられるようにし、音の厚みを獲得しました。これによりダルブリやマルカウンスのような低域を重視するラーガにも対応可能になりました。
- 穴数・配置の最適化:音階の正確さと表現の幅を広げるために、ホール数や穴の位置・径の調整を行い、滑らかなミーン(meend/グリッサンド)や微分音的なフレージングが可能となりました。
- 歌唱表現の移植(gayaki ang):ヴォーカルのニュアンス(ビブラート、スラー、微妙なイントネーション)をバンスリーで模倣する奏法を確立し、「笛で歌う」ことを目標にしました。
- 呼吸とフレーズ作り:長いフレーズを流麗に吹き切るための呼吸法、フレージング設計、アクセントの配置などを工夫しました(当時としては革新的なフレーズ運用)。
演奏スタイルの特徴
- 叙情性とスロー・アラープ:アーラープ(ラーガの導入部)をじっくりと歌うように展開し、各音の局面で表情を変えながら聴き手を引き込むスタイル。
- グリッサンドとスライド:指使いと孔の設計を活かした滑らかなミーンが大きな特徴で、ヴォーカル的な連続性を作ります。
- リズム感とタールへの理解:細かなターンやタヌア(速いパッセージ)をリズミカルに奏で、タール(拍子)に対する鋭い感覚を示します。
- 音色の多彩さ:低音域の太い響きから高音域の明瞭な音まで、幅広い音色を自在に引き出しました。
代表曲・名盤(入門ガイド)
パンナラール・ゴーシュの演奏は当時の録音技術の制約もありますが、彼の表現美を伝える演奏が残されています。初めて聴く人には下記のようなラーガ演奏がおすすめです。盤名や収録は復刻盤や編集盤で入手可能なことが多いです。
- ラーガ・ヤーマン系の演奏(夕方の穏やかさと歌うようなフレーズを聴けます)
- ラーガ・マルカウンス系(低域の響きと深い表現を確認できます)
- ラーガ・ビレーブ(Bhairavi)やダーラブリ(Darbari)など、叙情性の強いラーガ
- 舞踊や映画向けの短い楽曲・テーマ曲(バンスリーの別用途を知る手掛かりになります)
具体的な入手方法としては、古典録音を集めた編集盤や、ストリーミングサービスの「Pannalal Ghosh」アーティストページ、または「Masters of Indian Music」系のコンピレーションに収録されていることがあります。
彼が与えた影響と後継者への波及
- 演奏者層の拡大:バンスリーがコンサート楽器として認知されたことで、以降の世代に多くのプロ奏者が現れ、教育体系や教本の整備も進みました。
- 音楽ジャンルの垣根を越えた影響:映画音楽や舞踊音楽にバンスリーが活用される機会が増え、ポピュラー音楽や他ジャンルの編曲にも影響を与えました。
- 後続奏者への技術的基盤:長いバンスリーやgayaki技法、フレージングの流儀などが次世代の奏者たちの出発点となりました。
聴きどころ・鑑賞のポイント
- アーラープでの音の立ち上がりと減衰を注意深く聴く:各音に込められた表情が分かります。
- 低音域のサステイン(音の持続)と密度:長いバンスリーならではの豊かな倍音に注目してください。
- スラー(連音)とミーン(スライド)の処理:歌に近い滑らかさが表れている箇所を探すと、彼の芸風がよくわかります。
- タール(拍子)に乗った速いパッセージ:リズムとメロディの関係性を見ると、即興の妙が感じられます。
現代に残る価値と聴き継ぐ意味
パンナラール・ゴーシュの功績は単にテクニックの改良にとどまらず、楽器に新たな文化的地位を与えた点にあります。彼の演奏を聴くことは、バンスリーという楽器がどのように「歌う」ために設計され、演奏され得るのかを理解するうえで最良の教材になります。また、彼が切り拓いた道は、今日のインド古典楽壇だけでなく国際的なワールド・ミュージックの潮流にもつながっています。
鑑賞上の注意(録音年代に関する配慮)
パンナラールの録音は概して古い録音環境でのものが多く、音質が現在の録音と比べて薄く感じられる場合があります。しかし、それらの録音には演奏性/表現性の本質が詰まっているため、音質にとらわれず「フレーズの意図」や「音の語り」を重視して聴くと大きな学びが得られます。
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