ビムセン・ジョシ(Bhimsen Joshi)— キラーナ流派の巨匠が拓くヒンドゥスターニー古典音楽の世界
ビムセン・ジョシ(Bhimsen Joshi)— 概要と人物像
ビムセン・ジョシ(Bhimsen Joshi、1922年2月4日 - 2011年1月24日)は、インド・ヒンドゥスターニー古典音楽を代表するボーカリストの一人で、特にキラーナ流派(Kirana gharana)の巨匠として知られます。カルナータカ州ガダグ生まれ、プネーを活動の拠点とし、長年にわたり国内外で演奏を続け、ヒ・クラシックの声楽表現に新たな高みを築きました。
略歴(生涯の主な出来事)
幼少期から音楽に親しみ、後にキラーナ流派の大家サワイ・ガンダルヴァ(Sawai Gandharva)に師事。師から受け継いだレパートリーと技術を基盤に独自の表現を発展させた。
長年にわたる演奏活動を通じて、カヤール(khayal)を中心に、アーバング(alap)、スラーグム(sargam)、ターン(taans)など高度な技術を披露。
受賞歴は極めて多く、インド政府の最高栄誉であるバラット・ラトナ(Bharat Ratna、2008年)を含め、Padma Shri、Padma Bhushan、Padma Vibhushanなどを受賞。
2011年にプネーで逝去。彼の遺した録音と教育・祭事への貢献は現在も多くの演奏家や聴衆に影響を与え続けている。
歌唱スタイルと音楽的魅力
ビムセン・ジョシの魅力は、その「声」と「表現力」の両面にあります。以下に主要な特徴を挙げます。
力強く豊かな声質:低音から高音まで安定して届く声は、長時間の演奏でも力を失わず、演奏全体に張りと重量感を与えます。
アルペ(alap)における深い探求:導入部であるアルペで見せる時間のかけ方、音の間(マタ)の取り方が非常に詩的で、聴く者をラガの世界へ引き込みます。
ターン(taans)とフレージング:高速で緻密なターンを駆使しつつ、音の輪郭を崩さない。技巧と叙情が両立したアプローチが特徴です。
感情の直截な伝達:宗教的なバジャンやマラーティー語のアバング(abhang)を歌う際の真摯さと説得力は特筆に値し、ジャンルを超えて幅広い聴衆に届きます。
インプロヴィゼーションの緻密さ:同じラガの演奏でも毎回異なる展開を見せ、即興的な美しさと構築性を両立させます。
代表的なレパートリーと名演の傾向
ビムセン・ジョシは特定のラガに特化するというより、Yaman、Todi、Bhairavi、Darbari Kanada、Bhimpalasi、Malkauns など、ヒンドゥスターニー音楽の主要ラガを幅広く取り扱いました。加えて、マラーティーのアバング(Sant Tukaram らの詩に基づく宗教歌)やバジャン(ヒンドゥー教の賛歌)も得意とし、これらの録音は彼のもう一つの顔を示しています。
ライブ録音では、サワイ・ガンダルヴァ・サンゲート・マホツァヴ(Sawai Gandharva Sangeet Mahotsav、プネーの音楽祭)での演奏が高く評価され、そこでの長時間にわたる濃密な演奏は「ビムセン・ジョシらしさ」を示す好例です。
代表曲・名盤(聴きどころの例)
ラガ演奏:Yaman、Bhimpalasi、Darbari Kanada、Malkauns、Todi など — 各ラガにおけるアルペから展開する構成、ターンやスラーグムの使い方を聴いてください。
アバング/バジャン集:彼の宗教歌の録音は、情感豊かで心に残るものが多く、初めての人にもとっつきやすい入口となります。
ライブ録音:Sawai Gandharva Festival のライブ録音や各地でのコンサート録音は、彼の即興力と舞台での存在感を最もよく伝えます。
コンピレーション盤:一般向けのベスト盤やレトロスペクティブ盤は、代表的な演奏を時系列で追うのに便利です(主要レーベルの EMI/HMV、Saregama、その他の再発盤を参照)。
舞台での存在感とパフォーマンスの哲学
ビムセン・ジョシは舞台上で非常に誠実で真剣な態度を示しました。技巧を見せることが目的化するのではなく、ラガの表現と精神性を聴衆に伝えることを第一に置く姿勢が特徴です。また、長丁場の公開演奏でも集中力を保ち、同じ音楽でも毎回新しい物語を語るように演奏しました。
教育・祭事・後進への影響
ジョシは演奏家としてだけでなく、教育者・文化振興者としても多大な影響を残しました。彼の師サワイ・ガンダルヴァにちなむサワイ・ガンダルヴァ・サンゲート・マホツァヴは、プネーで開催される重要な音楽祭となり、多くの若手と聴衆を育てる場となっています。数世代にわたり多くの弟子が彼の技術と精神を受け継いでいます。
聴き方のガイド(初心者向け)
まずは短めのアバング/バジャン集で彼の声と表現に親しむ。
次に、Yaman や Bhimpalasi といった比較的取り組みやすいラガのアルペ→展開を聴き、音の動きや間の取り方を追う。
ライブ録音で長時間演奏に触れて、即興がどのように構築されていくかを感じ取る。特にアルペの深化→テンポのある展開→終結の流れに注目。
ビムセン・ジョシが残したもの—遺産と現代への影響
彼の遺産は多面的です。まず純音楽的には、声を楽器として最大限活かした表現法と即興の美学。次に文化的には、地域の伝統的宗教音楽(アバングやバジャン)をクラシックの枠内で再提示したこと。そして教育・祭事面では、若手育成や音楽祭の恒常化を通じて、ヒンドゥスターニー音楽の伝承基盤を強めた点が挙げられます。
おすすめの聴取環境
彼の声の豊かさとアルペの余韻を味わうには、できれば静かな環境で、良好なヘッドフォンか中〜大口径のスピーカーで低域から高域までのバランスを確かめながら聴くのが向いています。ライブ録音では会場の雰囲気も含めて楽しめるので、スピーカー再生もおすすめです。
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