MS Subbulakshmiの録音を極める:名盤とレコード選び・聴き方の完全ガイド
序章:M. S. Subbulakshmi—声と伝統の架け橋
M. S. Subbulakshmi(マ・エス・スブラマニヤム、以下 MS)は20世紀インド古典音楽を代表するカーリヤーナ(カリヤーナ)歌手であり、その透明で力強い声、深い表現(bhava)、および宗教的・文化的なレパートリーで世界的に知られています。彼女は宗教音楽(bhajan、suprabhatam)からトヤガーラヤ、ティルパカル(ティル・トリニティ)のクリティまで幅広く歌い、録音はヴァイナル、LP、CD、デジタル配信を通じて今も聴かれ続けています。
なぜレコードで聴くのか
歴史的録音の空気感:オリジナルのLPや初期リマスター盤は当時の演奏会の雰囲気や録音技術の特色を伝えます。
歌唱のディテール:MSの発音、ガマカ(装飾音)、フレージングは繰り返し聴くことで新たな発見があります。
編集やコンピレーションの違い:同じ曲でもアルバムの構成や編集で受ける印象が変わります。名盤を選ぶことでより深く彼女の芸を追体験できます。
おすすめレコード(解説付き)
Venkatesa Suprabhatam(ヴェンカテーシャ・スプラバータム)— 定番中の定番
概要:ティルパティ(Tirupati)の主神を称える早暁の祈り(suprabhatam)。MSのヴァージョンはインド国内外で極めて高い人気を誇り、日常的に聴かれる録音です。
聴きどころ:彼女の穏やかで清澄な声による朝の祈りの空気感、語尾の丁寧な処理、句読点的な間の取り方。宗教的な敬虔さが声そのもので伝わります。
推奨盤:HMV/EMIやSaregamaが出したリマスターCDや配信版。オリジナルLPが手に入れば音の自然さが魅力ですが、リマスターはノイズ除去と明瞭さで聴きやすいです。
Meera Bhajans / Film "Meera" 関連録音 — 叙情と信仰の物語
概要:MSが主演・歌唱した映画「Meera」で歌われるミーラバイ(Meera bai)のバジャンは、彼女の表現力と劇的な歌唱が際立つレパートリーです。映画音源やその後のスタジオ録音で複数の解釈が残されています。
聴きどころ:ドラマティックな抑揚、詩(サヒティ)の伝達力、情感の込め方。映画音源は伴奏や演出の違いも楽しめます。
推奨盤:映画サウンドトラックのオリジナル盤(SP/LP)や、ベスト・オブ系コンピレーション。ライナーノートに曲目・制作情報がある盤を選ぶと背景理解が深まります。
カーニック古典コンピレーション(Tyagaraja、Muthuswami Dikshitar、Syama Sastri)— トリニティのクリティ集
概要:南インド古典(カーニック)音楽の三大作曲家のクリティをMSが歌った録音は、彼女の技術と解釈力を知る上で必須です。複数のアルバムやライブ録音で名作が残されています。
聴きどころ:ラーガ(旋法)の輪郭、ガマカの処理、歌の構築(alapana → kriti → niraval / kalpana swara など)の展開。MSの歌詞朗読(sahitya)の明瞭さが一つの魅力です。
推奨盤:コンサート録音を集めたアンソロジーや「The Voice of M. S. Subbulakshmi」などのシリーズ。曲目と録音年が明記されているリリースが望ましいです。
Maithreem Bhajata(マイトリーム・バジャタ)— 国際舞台の瞬間を記録
概要:1966年の国連演奏(UN Day)でMSが披露した「Maithreem Bhajata」は、世界平和をテーマにした重要なパフォーマンスとして知られています。録音や映像が残されており、彼女の国際的な影響を象徴します。
聴きどころ:国際舞台での歌唱表現、音声の収録・再生環境が異なるためメディアによって表情が変わる点にも注目。歴史的・文化的意味も大きな聴取ポイントです。
歴史的ライブ録音集(Madras Music Academy ほか)
概要:MSのライブ(演奏会)録音は、スタジオ録音とは違う自由な展開や対話的な演奏が楽しめます。Madras Music Academyでの演奏など、公的な場での名演が多数残っています。
聴きどころ:演目の構成(長いalapanaや即興部分)、聴衆の反応、伴奏者との呼応。ライブならではの緊張感と解放感を味わえます。
盤選びの具体的なポイント(買う前に確認したいこと)
録音年とリリース情報:同一曲でも年代や録音条件で表現が変わります。ライナーノートに録音年・場所が記載されているか確認してください。
レーベル:HMV / EMI(後のSaregama)、インディアン・レーベル、海外のリイシューなど。HMV系のオリジナル盤と、近年のデジタルリマスター盤では音質傾向が異なります。
リマスターの有無:ノイズ除去で聴きやすくなる一方、過度な処理で「声の自然さ」が失われることもあります。レビューやサンプルを確認して選びましょう。
コンピレーションの注意点:複数のコンサートやスタジオ録音を混ぜた編集盤は便利ですが、曲間の文脈(演奏会の流れ)が失われることがあります。コンサート全体を楽しみたい場合は全集・ライブ集を。
盤の状態(中古LP/EP/78)を確認:ジャケットや盤面の状態、オリジナル・プレスの有無をチェックしてください(通販では写真やセラー評価を重視)。
聴き方・楽しみ方の提案
歌詞(サヒティ)を手元に用意する:サンスクリット/タミル/テルグ語など混在します。意味が分かると表現の意図が深く理解できます。
同一曲の複数録音を比較:スタジオ録音とライブ、若年期の録音と成熟期の録音を聴き比べると技術と表現の変化がはっきり分かります。
演奏史的背景を学ぶ:作曲家の背景、宗教儀礼との関わり、当時の音楽シーンを知ると聴取体験が豊かになります。
おすすめの入手先(現代の利便性重視)
公式リマスターCD/配信:Saregama(旧HMV)やEMI系の公式ストア、各種ストリーミング/配信サービス。
中古レコードショップ:オリジナルLP、EP、78回転盤を探すなら専門店やオンラインマーケットプレイス。写真と出品説明をよく確認してください。
専門レーベルの復刻:インド系の古典音楽を丁寧に復刻するレーベル(ライナーノート充実のもの)が時に貴重なソースを提供します。
聴取メモ:代表曲に注目するポイント(例)
Bhaja Govindam:フレージングと感情の起伏、語尾の明瞭さに注目。
TyagarajaのKritis:ラーガの導入(alapana)とクリティでのメロディ解釈の対比。
Meeraのバジャン:叙情性と叙事性のバランス、表現の劇性。
Maithreem Bhajata(UN演奏):国家 / 国際舞台での声の表現力、儀礼的な構成。
おわりに
M. S. Subbulakshmi の録音は、単に「歌」を超えた文化的・宗教的遺産です。初めて聴く人はまず〈Venkatesa Suprabhatam〉や〈Meera〉の代表録音で彼女の声の魅力を感じ取り、そこからクリティ集やライブ録音へと深掘りしていくのがおすすめです。盤の選択肢は多く、リマスターとオリジナルそれぞれの良さがあります。目的(歴史性を重視するか、音質を重視するか)を明確にして選んでください。
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参考文献
- M. S. Subbulakshmi — Wikipedia
- M. S. Subbulakshmi — Saregama(公式アーティストページ)
- M. S. Subbulakshmi — AllMusic


