ビムセン・ジョシのカヤールとバジャンを聴く:ラーガ解説と聴きどころガイド

イントロダクション — ビムセン・ジョシ(Bhimsen Joshi)とは

ビムセン・ジョシ(Pandit Bhimsen Joshi、1922–2011)は、インド古典音楽(ヒンドゥスターニー)を代表する声楽家の一人で、特にカーンデー(Kirana)流派の影響を受けた情感豊かなカヤール(khayal)と、民衆に親しまれるバジャン/アバング(bhajan/abhang)で広く知られています。力強い胸声、伸びやかなミーンド(音の滑らかな移行)、そして長大なアーラープ(序奏)から鮮烈なターン(taan)へ至る表現は、多くの聴衆・演奏家に影響を与えました。

聴きどころのガイド

  • 序奏(アーラープ)を味わう:ビムセンはアーラープで音の立ち上がりや微細なニュアンスを丁寧に描き出します。最初はゆっくりと、律動が入る前のフレーズの深みを聴き取りましょう。

  • ヴィランビット→ドラットの構成:長めのヴィランビット(遅いテンポの歌)でモーダルな展開を確認し、その後のドラット(速いテンポ)でのターンやスピード感の対比を楽しんでください。

  • 言葉の扱い(ボール)と即興:歌詞(ボール)を音楽的に分解するボール・アラープや、スカル(sargam)やターンを交えた高度な即興に注目すると、彼の技術と感情表現の両面が見えます。

  • 伴奏との対話:タブラやハルモニウムとの呼吸、特にタブラのティヤール(足拍)の入り方やカヤールに対する響きの受け渡しも聴きどころです。

おすすめレコード(聴き方付き)

ここでは「代表的なラーガ録音」「ライブの臨場感を味わえる演奏」「バジャン/アバングの入門盤」「コンピレーション」の4つの切り口で、ビムセンの魅力を深掘りするためのレコード(盤)を紹介します。具体的な盤の入手時には、オリジナルLPかリイシューCDかで音の傾向が異なるので下記の解説を参考にしてください。

  • ラーガ中心の名録音(長大なカヤールを味わう)
    解説:ビムセンの真骨頂はやはり長尺のカヤール。Raga Yaman、Raga Bhimpalasi、Raga Darbariなど、彼が深く表現したラーガの単独演奏盤は、じっくりとアーラープからドラットまでを追えるので入門から通好みまでおすすめです。オリジナルのHMV/EMI LPはアナログの厚みがあり、現場の空気感がよく出ます。リイシューや公式コンパイルでも、フル尺が収録されたものを選ぶと良いでしょう。

    聴きどころ:アーラープの息づかい→ヴィランビットのモード提示→ドラットでのターンの精度。

  • ライブ録音(臨場感と即興の展開を楽しむ)
    解説:コンサート録音は、ビムセンの即興的反応や観客とのやりとりが聴ける貴重な資料です。ライブではテンポや装飾が studio より伸び伸びしており、彼のフレージングの変化や瞬発力がより鮮明に出ます。公演名や会場で検索して、評判の高い録音(例:伝統的な音楽祭や大学・文化会館での録音)を探してみてください。

    聴きどころ:瞬発的なターン、節回しの変化、観客の反応が与える演奏への影響。

  • バジャン/アバング集(宗教歌・民衆詩の領域)
    解説:ビムセンはヒンドゥー教のバジャンやマラーティー語のアバングでも多く録音しています。これらはカヤールとは異なる直截な情感表現を示し、親しみやすさから初めてビムセンを聴く人にもおすすめです。音響的にはボーカル前面のミックスが効いた編集が多く、歌詞の言葉が伝わりやすいです。

    聴きどころ:言葉による訴求力、シンプルながら濃密なメロディの展開。

  • 入門コンピレーション(入門・ギフト向け)
    解説:「ベスト・オブ」や「Definitive」的な編集盤は、代表曲や短めのカヤールをバランスよく収めているため、まずは彼の個性を掴みたいリスナーに向きます。ただし、曲を短縮して編集されていることがあるため、本当に深く聴きたい場合はフル尺の単独録音に移行するのが良いでしょう。

    聴きどころ:代表的なフレーズ、歌い回しの特徴、音色の魅力を短時間でつかめる点。

具体的に探すときのヒント(盤の選び方)

  • レーベルを確認する:HMV(Saregama)、EMI系など古いアーカイブがオリジナル音源を保有していることが多いです。ディスコグラフィ(Discogs)や公式サイトで所蔵状況を確認してください。

  • フル尺か編集盤かをチェック:カヤールはフル尺でこそ味わえる要素が多いため、アルバム説明に「complete/extended」や曲の再生時間が書かれているか確認しましょう。

  • 音質(マスタリング)の違い:オリジナルLPは暖かみがある一方、近年の正規リマスターはノイズ除去やバランス改善で聴きやすくなっています。サンプルが試聴できれば必ず聴いて判断してください。

  • ライナーノーツ/解説の充実度:伝統音楽では演奏背景やラーガの説明が理解の助けになります。解説が詳しい盤は学びながら聴けておすすめです。

聴く順序の提案(初級→中級→上級)

  • 初級:バジャン/アバングの編集盤や代表曲集で声と表情を掴む。

  • 中級:代表的なラーガのフル尺録音(Yaman、Bhimpalasiなど)でアーラープからドラットまでを追う。

  • 上級:ライブ録音や長尺のヴィランビット中心のコンサート録音を繰り返し聴き、即興の構築や伴奏との相互作用を分析する。

鑑賞上の注意点(文化的コンテクスト)

  • ラーガは単なるメロディではなく時間帯・感情表現と結びついています。演奏されるラーガの本来の時間帯や伝統的意味を知ると一層深く味わえます。

  • 同じラーガでも歌い手によって解釈が大きく異なります。ビムセン特有の「強さと詩情」を比較対象(たとえばカーンデーの他の巨匠)と比べると違いが明確になります。

補足:おすすめの聴きどころリスト(短め)

  • Yaman:落ち着いた序奏から高揚するターンまでの流れ
  • Bhimpalasi:情感豊かな下降フレーズ、抑えた表現の機微
  • Darbari Kanada:重厚で深い低音域の表現
  • バジャン集:言葉による直接的な感情表現と親しみやすさ

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参考文献