モーツァルト:アンダンテ 変ロ長調 K.5b(K6.9b・断片)— 来歴・分析・演奏ガイド

モーツァルト:アンダンテ 変ロ長調 K.5b(K6.9b・断片)について

『アンダンテ 変ロ長調 K.5b(K6.9b)』は、モーツァルトの幼少期の作品群の中で断片として伝わる短い鍵盤曲です。作品番号やカタログ表記に揺らぎがあり(K.5b と表記されることがある一方で K.6.9b のように記載されることもある)、史料が限られているため成立年や成立事情については確定的な結論が出ていません。そのため本稿では、現存資料に基づく来歴の整理、楽曲の音楽的特徴の分析、演奏・校訂上の留意点、そしてこの断片が持つ意味合いについて、できる限り丁寧に掘り下げます。

来歴と出典 — 史料の状況

本作は長大なソナタや協奏曲とは異なり、短いアンダンテの断片として伝わっています。モーツァルトの幼少期の作品群は、当時の家族用手稿(いわゆる「ナンネルルの手帳」など)や後年の写譜、出版物の断片として残ることが多く、本作も例に漏れません。カタログ上では古いコーシェル目録の写しや後続の改訂で番号が揺れたため、複数の番号表記が見られます。

重要なのは、現存する写本や写譜の出所と筆跡の検証です。多くの散逸した幼年期作品と同様、筆跡がヴォルフガング本人の筆か、父レオポルトあるいは当時の写譜師の筆なのかによって信頼度が変わります。残念ながら本作については単一の確定的な自筆稿が広く参照されているわけではなく、目録上は補訂・付記の対象になっていることが多い点に留意が必要です(=断片・付録的扱い)。

楽曲の概観と形式

楽曲は短く、典型的なアンダンテの速度感で書かれています。形式的には短い二部形式(A–B)や小規模なソナティーナ風断片に近く、明確な主題提示と短い展開的要素を含む構造が推測されます。旋律線は幼児期作品に共通するガラン(galant)様式的な単純明快さを持ち、均整のとれた周期句によるフレーズ構成が特徴です。

和声進行は安定したトニック—ドミナントの枠組みを中心にしており、大胆な転調や長い展開は見られず、短い装飾的モティーフや運指上の配慮が目立ちます。これらは当時の家庭音楽として、また教育的な目的で作曲された作品群に共通する性格です。

音楽的特徴の詳細分析

  • メロディとフレーズ: 短い動機の反復と平易な歌謡性。両手のバランスは子どもの技術水準に合わせた簡潔さがあり、右手の旋律に対する左手の簡明な和音進行が中心。
  • 和声: 基本はイタリア風ガランと古典派初期の機能和声の融合。終止は明確で、短い間の属和音処理が用いられる。
  • リズムと表現: アンダンテという速度指示が付く場合、やや歌うようなテンポでの均整が効果的。装飾は当時の通例に従って、小さなトリルや回転音を控えめに挿入するのが自然。
  • テクスチュア: 伴奏はアルベルティ型に近い分散和音や、簡潔な和音刻みによる支え。和声の移り変わりを明瞭にするための指使いが楽譜上に示されていることもあるが、写譜差異に注意。

断片であることの意味と実践的意義

断片作品として残る場合、演奏や録音、校訂を行う際に二つの道が出てきます。ひとつは現存部分をそのまま演奏・録音して史料的価値を強調する方法、もうひとつは補筆や復元(補作)を行って演奏時間や構成の満足感を追求する方法です。いずれにしても、補筆を行う場合は楽曲の時代風やモーツァルトの他の幼年期作品に基づく音楽学的な根拠を明確にすることが必須です。

演奏上の留意点

  • テンポ感: 「Andante」とある場合は歌うようなテンポを基準に、拍節感を崩さないこと。過度に遅くすると簡潔さが失われる。
  • 装飾: 18世紀的装飾は控えめに。楽譜に特段の指示がなければ、当時の慣習に従った小品的装飾で十分。
  • ペダルとタッチ: フォルテピアノを念頭に置くと、現代ピアノではペダルは軽く短めに用いる。タッチは透明感を重視し、和声の動きが明瞭に聞えるようにする。
  • 楽器選択: 歴史的奏法(フォルテピアノ)での演奏は音色的に作品性を示しやすいが、現代ピアノでも充分に表現可能。

比較と位置づけ — 同時期の作品との関連

この断片は、モーツァルトの他の幼年期の鍵盤曲(K.1〜K.9など)と共通する要素を多く持ちます。つまり短い周期句、ガラン様式的調性進行、教育的配慮の見られる簡潔なテクスチュアです。これらは当時のヨーロッパの宮廷・家庭音楽の伝統に根差しており、特に父レオポルトの教育方針やウィーン、ザルツブルク周辺の音楽文化の影響が色濃く出ています。

校訂と資料調査のポイント

研究者や校訂者が本作を扱う際の基本方針は、現存する写譜・写本の最良版を決定すること、補筆を行うならば他の幼年期作品との類似点に基づく慎重な音楽学的根拠を提示することです。デジタル化された資料(例:Neue Mozart-Ausgabe のデジタル版など)や公開写本の比較は不可欠です。また、注記として断片であることと補筆・復元の有無を明記することが学術的には重要です。

おすすめの聴き方と研究の展望

短い断片であることを踏まえ、同時期の他の小品とセットで聴くことを勧めます。そうすることでモーツァルト幼年期の語法や表情の共通点が見えやすくなります。将来的な研究課題としては、写譜の筆跡分析や写本の系譜整理、そしてもし新史料が発見されれば成立年や成立地の再検討が挙げられます。

まとめ

『アンダンテ 変ロ長調 K.5b(K6.9b)』は、史料的制約から来歴や正確な成立年が流動的であるものの、モーツァルト幼年期の作風を理解する上で興味深い断片です。短いながらもガラン様式の美しさ、古典派初期の和声処理、教育的な配慮が感じられ、演奏・校訂の際には断片であることを正直に示した上での扱いが望まれます。

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参考文献