ドイッチュ番号とは — シューベルト作品のD番号を徹底解説
はじめに:ドイッチュ番号(D番号)とは何か
ドイッチュ番号(D番号)は、フランツ・シューベルト(1797–1828)の作品を整理・特定するために用いられる識別番号です。通常「D.(数字)」という形で表記され、Schubertの作品を年代順に並べることを基本としたカタログに由来します。日常のCD解説や楽譜の表記、学術論文などで広く使われており、シューベルト研究や演奏において事実上の標準番号体系になっています。
起源と編者:オットー・エーリッヒ・ドイッチュ(Otto Erich Deutsch)
ドイッチュ番号は、音楽学者オットー・エーリッヒ・ドイッチュ(Otto Erich Deutsch, 1883–1967)が編纂した「シューベルト作品目録(Thematic Catalogue)」に由来します。ドイッチュは膨大な一次資料(自筆譜、初版、手稿や出版史料、日記や書簡など)を収集・比較し、作品ごとに主題(冒頭の旋律)を示す主題記号(incipit)と作品に関する典拠情報を付して一覧にまとめました。
このカタログは、当時まで混乱していた出版物に付与された諸種のOp.番号や出版社による通し番号に代わる、学術的に整った総合目録として受け入れられました。ドイッチュ自身は可能な限り年代順に配列することを試み、そこから与えられた番号が「D番号」として定着しました。
ドイッチュ番号の付け方・原理
- 年代順の配列:原則として作曲年代を基準に作品を並べます。初稿・改訂・再編などの情報を総合して年代推定を行い、この順序で番号が振られています。
- 主題の提示(始めの小節):各項目には楽曲の冒頭主題(インシピット)が掲載され、同一曲の識別を容易にしています。
- 補足記号:後の研究で新情報が見つかった場合や断片・疑作が分類される場合、数字にアルファベット(例:D. 5A)や付録(Anhang=「付録」)が用いられます。
代表的なD番号の例
- 交響曲第8番(未完成): D.759 — 通称「未完成交響曲」。
- 交響曲第9番(グレート): D.944 — 「グレートCメジャー」として知られる大作。
- 歌曲「魔王(Erlkönig)」: D.328 — シューベルトの早熟な傑作の一つ。
- 歌曲集「冬の旅(Winterreise)」: D.911 — 詩人ヴィルヘルム・ミュラーの詩による晩年の歌曲集。
- ピアノソナタ最晩年の3曲: D.958, D.959, D.960 — シューベルトのピアノ音楽の頂点に位置する作品群。
Op.番号との違い — なぜD番号が重要か
シューベルトの多くの作品は生前に整理されず、死後に出版社が編集・付番して出したものが多くあります。その結果、Op.番号は発行順や出版社ごとにばらつきがあり、作曲年代や作曲順を反映しないことが一般的でした。D番号は年代順を基本にしているため、作曲史的な文脈や作曲家の発展を理解するうえで有用です。例えば、ピアノソナタD.959とD.960は連続する最晩年の作品であることがD番号からわかりやすくなります。
付録(Anhang)、疑作、断片の扱い
ドイッチュの目録には、信憑性が低い作品や断片、伝承のみで伝わる作品などをまとめた「Anhang(付録)」が設けられています。付録に収められた作品は正式な作品番号とは別に扱われ、研究者は原典批判を通じて真作性や成立年代を検証します。また、同一番号に同名の別作品が存在したり、後に真正性が否定されたりすると、D番号の後にアルファベットが付されることがあります(例:D. 23A のような表記)。
その後の研究と番号の補訂
ドイッチュの原刊行以降も、シューベルト研究は進み、新たに発見された資料やより精密な年代研究により一部の配列や成立年代は見直されてきました。ドイッチュ自身や後続の学者による補訂・追補が行われ、現行の出版社版や研究書では最新版の情報を反映させています。しかしD番号は一貫した識別子として広く使われ続けており、完全に別の体系に置き換わったわけではありません。
ニュー・シューベルト版(Neue Schubert-Ausgabe, NSA)との関係
20世紀後半から進められた「ニュー・シューベルト版(Neue Schubert-Ausgabe, NSA)」は、批判校訂版として原典に基づく正確な楽譜を提供することを目的としています。NSAは版のシリーズ番号で作品を編んでいますが、作品の識別には引き続きD番号が使われます。つまり、NSAはテキスト批判・校訂という面で重要であり、D番号は識別・索引という面で重要、という役割分担がなされています。
リスナーと演奏家がD番号をどう使うか
- CDや配信で作品を検索するとき:作品名だけでなくD番号を併記することで同名異曲を混同せずに済みます(シューベルトには同名の小品が複数あるため)。
- プログラムや解説を書くとき:作曲年代や作品群の位置づけを示す際、D番号は信頼できる目安になります。
- 楽譜を選ぶとき:NSAや信頼できる校訂版を探す際にD番号をキーに検索すると正確な版に辿り着きやすいです。
限界と注意点
- 完全な年代順ではない:ドイッチュはできる限り年代順に配列しましたが、全ての作品の成立年が確定しているわけではありません。したがってD番号の大小が必ずしも厳密な作曲年の前後を示すとは限りません。
- 追補・移動の可能性:新資料の発見により配置が見直されることがあるため、古い版の注記と最新の研究を照合する必要があります。
- 表記の揺れ:録音や楽譜によってはOp.番号や出版社の通し番号が併記されている場合があり、混同に注意が必要です。
実例で学ぶ:見かけやすい誤解
「Ave Maria」として知られるシューベルトの名旋律は、実際には『エレンの歌 第三番(Ellens dritter Gesang)』で、D.839(Op.52-6)に対応します。作品名だけで探すと、別の同名作品や編曲を拾ってしまうことがあります。また「未完成交響曲」として知られるD.759は、2楽章まで完成した交響曲であることがD番号の注記や研究で確認されていますが、断片や補筆の歴史が複雑です。
まとめ:なぜD番号を知るべきか
ドイッチュ番号はシューベルト作品を学術的かつ実務的に扱ううえで不可欠なツールです。作曲年代に基づく配列、主題の記載、疑作や断片の付録化といった仕組みにより、研究者・演奏家・聴衆が作品を正確に識別し、文脈を理解する助けとなります。最新の版やNSAと合わせて活用することで、より深い鑑賞や確かな演奏準備につながります。
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参考文献
- Otto Erich Deutsch — Wikipedia (英語)
- Franz Schubert — Wikipedia (英語)
- New Schubert Edition (Neue Schubert-Ausgabe) — Wikipedia (英語)
- IMSLP: Franz Schubert — 楽譜コレクション
- Schubert Online — デジタル図書館および資料集
- Encyclopaedia Britannica: Franz Schubert
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