バッハ「BWV 43 歓呼のうちに神は昇天したもう」―典礼・音楽・象徴を読み解く
序章:作品の位置づけと本稿の狙い
ヨハン・ゼバスティアン・バッハの教会カンタータ BWV 43(邦題:「歓呼のうちに神は昇天したもう」/ドイツ語原題: Gott fähret auf mit Jauchzen)は、昇天祭(イースター後40日目=イエスの昇天を記念する祝日)のために用いられる宗教作品です。本稿では、典礼的背景、テキストの出典と神学的意味、楽曲構成と作曲技法、演奏/解釈のポイント、聴取のための推奨録音などを踏まえて、深堀りして解説します。できる限り一次資料や学術的研究に基づいた記述を心がけます。
典礼的背景と聖書テクスト
昇天祭の標準的な聖書朗読は、福音書と使徒言行録の昇天に関わる箇所(例えばルカ福音書24章46–53節、使徒言行録1章9–11節)であり、教会暦における昇天のテーマは「キリストの天への昇り」と「地上に残った弟子たちへの使命」です。バッハのカンタータは、典礼でその日の説教や聖書朗読と連関するように作曲されることが多く、BWV 43も例外ではありません。テキストは聖書の語句の引用、キリスト教的な賛歌文句、並びに既存のコラール(讃歌)の引用や改作から成ります。
テキスト作者と作品成立について
BWV 43の正確な詩人(リブレット作者)は確定していないのが通説です。バッハはライプツィヒ在任中、多くの礼拝のために年ごとのサイクルでカンタータを作曲しましたが、個別作品の初演年や初演の聖堂は資料により不明確な場合があります。成立年代や初演について断言する際は、楽譜写本や礼拝台帳等の一次資料に基づく慎重な検証が必要です。
編成(演奏力)と祝祭性
昇天祭のような祝祭日には、バッハはしばしば華やかな編成を用いました。一般にそのような作品にはトランペットやティンパニなどの祝祭的な金管打楽器が加わることが多く、BWV 43でも祝祭的な色彩がうかがえる楽器編成が採用されているとされます。声部はソリスト(ソプラノ、アルト、テノール、バス)と混声合唱(または合唱の扱いでのソリスト群)が用いられ、弦楽器群とリード楽器(オーボエ等)、通奏低音が伴います。
構成と楽曲分析の視点
バッハのカンタータは一般に複数の楽章から成り、序曲的な合唱曲、アリア、レチタティーヴォ、最終コラールという流れを持ちます。以下では、BWV 43を聴く際に注目したい主要な音楽的特徴と象徴性を動機や楽器法、和声処理、語句付け(ワード・ペインティング)の観点から整理します。
- 開幕合唱(コラールまたはコラール風の大合唱):昇天を主題とする作品では、冒頭に歓呼や上昇を表す高揚感あふれる合唱が置かれることが多く、トランペットやオーボエのファンファーレ、上行進行のメロディー、躍動するリズムで「昇る」イメージを描きます。バッハは旋律の上昇や短い打楽器的フレーズを用いて文字通り「昇天」を音で示すことを好みます。
- アリアとレチタティーヴォの対比:個々のアリアではソロ声部と器楽の対話を通じて、個人的信仰の告白や喜び、あるいは天的救済の描写がなされます。レチタティーヴォは語りを通じて物語的・説教的内容を伝え、和声の緊張で意味の強調を行います。
- コラールによる総括:終曲に置かれる4声のコラールは、教会共同体の応答としての役割を果たし、曲全体の神学的結論を提示します。和声進行や装飾により、最後の確信と平安が示されます。
音楽的象徴とワード・ペインティング
バッハの語法の重要な特徴は「文字表現(ワード・ペインティング)」です。昇天という語句には、音高の上昇、急速なスケール進行、ブラスのファンファーレや弦の上行アルペジオなどが対応します。反対に、『地に留まる』や『悲嘆』に関する語には下降進行や短調、時に不安定な和声が用いられます。BWV 43でも、そうした音楽的イメージ化が随所に見られると想定されます。
演奏・解釈のポイント
現代の演奏では、以下の点が解釈上の主要な論点になります。
- アーティキュレーションとテンポ:冒頭の歓呼やファンファーレは軽快に、しかし輪郭を明確にして演奏することで、祝祭性と信仰の確信を両立させられます。解釈によっては古楽器による小編成での演奏が、より透明な対位法を浮かび上がらせます。
- 合唱の扱い:合唱をフルコーラスで奏するか、ソリスト合唱的に扱うかで音色と輪郭が変わります。歴史的実践を重視する演奏ではソリスト主体のアプローチも取られますが、教会での伝統的な演奏法では混声合唱の厚みを活かすことも一般的です。
- トランペットとティンパニの使用:祝祭ブラスは作品の輝きを決定づけますが、バランス調整が不可欠です。合唱や弦との対比を考え、ブラスが単に音量で勝るのではなくテクスチュアを強調する役割を果たすよう心掛けるべきです。
推奨レコーディングと比較視聴の提案
BWV 43を理解するには、複数の演奏を比較して聴くことを勧めます。歴史的演奏(ピリオド楽器)とモダン楽器の両方を比較することで、テンポ、音色、合唱の扱いの違いが理解できます。代表的指揮者・団体としては、マサアキ・スズキ(鈴木雅明/Bach Collegium Japan)、ジョン・エリオット・ガーディナー(Bach Cantata Pilgrimage録音群)、トン・コープマンなどが挙げられます。それぞれの演奏で冒頭合唱のダイナミクスやアリアの伴奏扱いの違いに注目してください。
聴取ガイド:細部に耳を澄ますポイント
鑑賞時には以下の点に注意して聴くと、新たな発見があります。
- 開幕合唱でのトランペットのモチーフが、後の楽章でどのように再現・変形されるか。
- アリアの器楽導入(リトル・オーケストラ)が歌詞のどの語句を描いているか。
- レチタティーヴォの終わり方(ハルモニーの閉じ方)が神学的メッセージをどのように強調しているか。
- 最終コラールに現れる和声の“解決感”と、曲全体の精神的帰結。
結語:BWV 43が現代に伝えるもの
BWV 43は、典礼的・神学的主題を高度な音楽的技法で統合した作品です。昇天という視覚的で劇的な出来事を、音楽的象徴や対位法、和声進行を通じて聴覚化することで、教会共同体の信仰表現を豊かにしています。演奏史や解釈史を踏まえつつ、多様な録音を比較することで、この作品の深みをより実感できるはずです。
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参考文献
- Wikipedia: "Gott fähret auf mit Jauchzen, BWV 43"
- Bach Cantatas Website: BWV 43
- Bach Digital (総合データベース)
- Christoph Wolff, "Johann Sebastian Bach: The Learned Musician" (Harvard University Press)
- Alfred Dürr, "The Cantatas of J. S. Bach" (Oxford University Press)
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