バッハ BWV 597(変ホ長調)──オルガン協奏曲第6番の聴きどころと演奏解釈

導入:BWV 597とは何か

BWV 597 変ホ長調は、ヨハン・ゼバスティアン・バッハのオルガン協奏曲群(一般にはBWV 592–597とされる一連)に含まれる1曲で、通例オルガンの独奏と弦楽合奏のための三楽章構成(速—緩—速)を取る協奏曲様式の作品です。バッハがイタリア協奏曲の様式を取り入れて、器楽協奏曲の枠組みを鍵盤楽器(ここではオルガン)に適合させた典型的な事例のひとつとして、研究者や演奏家の関心を集めてきました。

史的背景と資料状況

バッハのオルガン協奏曲群は、ラテン語圏やイタリアの協奏曲作品への応答として位置づけられます。BWV 592–596については、ヴァイヴァルディなどイタリア人作曲家の協奏曲をバッハ自身が鍵盤用に編曲したものが多い一方、BWV 597については資料上やや扱いが異なります。現存する譜は写譜として残り、当時のレパートリーであった協奏曲様式をオルガンで演奏するために作られたことがうかがえます。

一次自筆譜が必ずしも完全に残っているわけではないため、原曲(もし原曲が存在するならば)との対応関係や編曲の有無については諸説あります。ただし、作品としての音楽的完成度やバッハ的対位法の活用により、バッハの手による整理・編曲ないしは作曲と考えるのが通説です。現代の版はバッハ全集(Neue Bach-Ausgabe)や各出版社が刊行しており、演奏譜や通奏低音の実現は各演奏家が選択します。

編成と楽器法

編成は典型的に独奏オルガン(ソロ)と弦楽合奏(ヴァイオリン1・2、ヴィオラ、チェロ/コントラバス)および通奏低音という体裁が想定されます。ただし、演奏史的にはハープシコードでの演奏やチェンバロと小オーケストラの組み合わせ、あるいは現代オルガン/バロックオルガンでの演奏など多様な実践が見られます。

楽曲構成と聴きどころ(楽章ごと)

  • 第1楽章(アレグロ相当)

    典型的なリトルネッロ形式を基盤とする速い楽章。弦楽器によるリトルネッロ主題が提示され、独奏オルガンはその主題に応答する形で華やかな対話を展開します。バッハはイタリア協奏曲の持つエネルギーを保ちつつ、対位法的な処理を重ね、ソロとリトルネッロ(合奏)との色彩のコントラストを鮮やかに描きます。和声は明るい変ホ長調を中心に機能和声を巧みに操り、終結部に向けて一層の緊張と解決を作り出します。

  • 第2楽章(ラルゴ/アダージョ相当)

    歌唱性の高い緩徐楽章。旋律は単純な旋律線ながらも内声部の対位法が豊かで、オルガンの持続音やレジストレーション(音色選択)によって宗教的・瞑想的な性格を帯びます。弦の伴奏は均衡の取れた和声進行を支え、バッハ特有の和声的転回や短い模倣によって深みが与えられます。装飾や緩徐部のテンポ処理は演奏家の表現の幅を広げる箇所です。

  • 第3楽章(アレグロ/フィナーレ)

    再び活発な楽章に戻り、舞曲的・機知に富んだ楽想が連続します。リズムの切れと各声部の掛け合いが魅力で、終曲に向けてテンションを高めつつも明瞭な締めくくりへと導かれます。バッハはここでもバランス感覚に富む書法を示し、ソロの技巧的パッセージと合奏の整然とした切れ味を両立させます。

音楽的特徴とバッハの工夫

BWV 597はイタリア協奏曲の枠組みを受け入れながらも、バッハらしい対位法や和声進行の巧妙さが随所に見られます。たとえば、主題が提示された直後に短い模倣や転調を挿入することで、単なる模倣以上の構造的統一感を生み出します。オルガンの独奏部分は、ハープシコード向け協奏曲に比べて持続感と音色の多様性を活かした書法が用いられ、特に緩徐楽章ではオルガン特有のサスティンとストップ(登録)を活かした表現が効果を生みます。

演奏・解釈上のポイント

  • 登録(ストップ)選択

    変ホ長調の明るさを活かしつつも、独奏オルガンは鋭いレジスター(リード摺合)とフルート系の柔らかい音色を場面ごとに使い分けると楽曲の対比が際立ちます。緩徐楽章では柔らかい8' や4'系の音色で歌わせるのが一般的です。

  • テンポとアゴーギク

    第1・第3楽章は鮮やかさと躍動感が重要ですが、速すぎずリトルネッロとソロの呼吸が噛み合うテンポが望ましい。第2楽章は歌わせるために余裕を持たせ、装飾は歌唱性を損なわない範囲で用います。

  • 通奏低音の扱い

    通奏低音(チェロやコントラバス、チェンバロ/オルガン左手)は和声の安定を保ちつつ、リズム的な刻みや装飾を適度に施すことで全体の推進力を補強します。歴史的演奏法に基づく小編成での演奏は対話性を高めます。

版と楽譜――どの版を使うか

演奏を準備する際は、まずNeue Bach-Ausgabe(新バッハ全集)や信頼できる校訂版を基礎にすることが推奨されます。古いバッハ全集(Bach-Gesellschaft-Ausgabe)にも参考資料があるものの、現代の校訂では写譜間の細かな相違や奏法上の注意点が注記されていることが多いため、最新の校訂版に目を通すと安心です。なお、オンラインで楽譜を参照する際にはIMSLPなどの公開譜を参考にできますが、校訂の差異に留意してください。

歴史的・音楽学的意義

BWV 597を含むオルガン協奏曲群は、バッハが国際的な協奏曲様式を吸収し、教会音楽・礼拝曲で用いる鍵盤楽器レパートリーへと転換した過程を示す重要な証拠です。特にライプツィヒ時代には、教会でのオルガン演奏と世俗的な器楽様式の溶合が進み、BWV 597のような作品はその過渡期に位置します。学術的には編曲元や写譜者の特定、各写本間の比較が研究対象であり、楽曲自体の成り立ちを巡る議論は今なお継続しています。

聴きどころ(リスナー向けガイド)

  • 第1楽章:導入の主題とオルガンの技巧的パッセージの掛け合いに注目。イタリア協奏曲のエネルギーとバッハ的精緻さが同居する。
  • 第2楽章:旋律の歌わせ方、内声の動き、音色の温度感に耳を澄ませると深い宗教的抒情が見えてくる。
  • 第3楽章:リズムの切れ、短い模倣句や反復の工夫が楽曲全体を締めくくる。終結部の爽快感を楽しんでほしい。

参考になる録音・演奏様式

歴史的楽器(バロックオルガンやチェンバロ)を用いた演奏は、当時の音響と発想を生き生きと伝えます。一方でモダン・オルガンでの演奏は音色のレンジやダイナミクスで別の説得力を持ちます。演奏を聴き比べることで、編成や登録、テンポ感の違いが楽曲の印象を大きく左右することが実感できるでしょう。

結び――BWV 597が示すもの

BWV 597 変ホ長調は、イタリア協奏曲という外来の様式をバッハが消化し、自身の対位法的・和声的言語と統合した好例です。教会的背景と世俗的技術の融合、独奏鍵盤楽器の可能性を押し広げた点で、バッハの器楽創作における重要な位置を占めます。演奏者にとっては解釈の幅が広く、聴き手には構造の巧妙さと旋律の美しさを同時に味わえる作品です。

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参考文献