電源ユニット(PSU)完全ガイド:80 PLUS・+12V・コネクタで分かる選び方と故障対策
電源ユニットとは — 基本説明
電源ユニット(Power Supply Unit、略してPSU)は、コンピュータやサーバ、ワークステーションなどの電子機器において、家庭用交流(AC)電源を機器が必要とする直流(DC)電圧へ変換し、各部品へ安定して供給する装置です。単に「電源」と呼ばれることも多く、システムの安定性や寿命、消費電力効率、騒音に大きな影響を与える重要なコンポーネントです。
電源ユニットの主な役割
- 電圧変換:家庭用のAC(100–240V)を、+12V、+5V、+3.3V、-12V、+5VSB(スタンバイ)などのDC電圧に変換する。
- 電力供給と分配:マザーボードやCPU、GPU、ストレージ、ファンといった各デバイスへ必要な電流を配分する。
- 保護機能:過電流(OCP)、過電圧(OVP)、過出力(OPP)、短絡(SCP)、過温度(OTP)、過負荷などから機器を守る。
- 効率化とノイズ低減:効率の良い電力変換(PFCなど)や低リップル設計により、電力損失と電気的ノイズを抑える。
主要な仕様と規格
電源ユニット選定や理解で重要となる仕様や規格は以下の通りです。
- フォームファクタ:ATX、SFX、TFX、EPS(サーバ用)など。ケースとの互換性を確認する必要があります。
- 定格出力(ワット数):最大供給可能な電力(例:550W、750W、1000W)。実際の必要容量は構成(CPU、GPU、ドライブ数など)に依存します。
- レール構成(+12V):近年のPCは+12Vに大部分の電力を依存するため、+12Vの電流供給能力が重要です。シングルレールとマルチレールの設計があります。
- 効率(80 PLUS):変換効率を示す指標で、80 PLUS認証(Bronze、Silver、Gold、Platinum、Titaniumなど)により評価されます。効率が高いほど発熱と電力損失が少なくなります。
- PFC(力率改善):Power Factor Correction。アクティブPFCが主流で、力率を高めて電源からの無効電力を削減します。
- コネクタ種類:24ピンATX、4/8ピンCPU(EPS)、6/8ピンPCIe、SATA電源、Molex(ペリフェラル)、FDD用小型コネクタなど。
- スタンバイ出力(5VSB)とホールドアップ時間:電源断時でも5VSBは一部回路(USB給電やウェイク機能)を維持します。ATX規格ではホールドアップ時間(瞬断耐性)に関する要求が存在します(目安として約17ms以上が一般的に規格要求)。
スイッチング方式と線形電源の違い
現代のコンピュータ用電源は主にスイッチング電源(SMPS)です。効率が高く小型化しやすい利点があります。過去には線形電源(リニア)もありましたが、重くて効率が低いため現在のPC用ではほとんど使われません。
コネクタとピンの概要
- 24ピンATX主電源:マザーボードに供給するメイン電源。かつては20ピンが主流でしたが、現在は24ピンが一般的。
- 4/8ピンCPU(EPS):CPU電源供給用。ハイエンドCPUやマザーボードは8ピン(4+4)またはさらに強化された配線を要求することがあります。
- PCIe(6/8ピン):グラフィックカード向けの高電力コネクタ。ハイエンドGPUでは複数本必要となる。
- SATA電源:SSDやHDD、光学ドライブ向け。近年はSATAが中心。
- Molex:旧式デバイスや一部ファン、LED用にまだ使用されます。
効率と80 PLUS認証
「80 PLUS」は電源の変換効率を評価するプログラムで、動作負荷(20%、50%、100%など)における効率基準を満たすと認証を受けられます。認証ランクは標準の「80 PLUS」からBronze、Silver、Gold、Platinum、Titaniumへと分かれ、ランクが上がるほど高効率であることを示します。効率が高いと発熱が減り冷却負担や電気料金が低くなりますが、効率だけでなく安定性や部品品質(特にコンデンサ)も重要です。
保護回路(保護機能)の説明
- OVP(Over Voltage Protection):出力電圧が過度に上昇した場合に電源を遮断して機器を保護します。
- UVP(Under Voltage Protection):電圧低下時に供給停止し、不安定な電源による誤動作を防ぎます。
- OCP(Over Current Protection):特定のレールに過大な電流が流れた場合に遮断します。マルチレール設計では各レールごとに設定されることがあります。
- OPP(Over Power/Over Load Protection):定格より大きな総出力が要求されたときに動作します。
- SCP(Short Circuit Protection):短絡が発生した際に即時遮断します。
- OTP(Over Temperature Protection):内部温度が危険域に達したときにシャットダウンします。
モジュラーと非モジュラー、ファン設計
モジュラー電源は不要なケーブルを取り外せるため、配線がすっきりしエアフロー向上に寄与します。フルモジュラー、セミモジュラー、非モジュラーの3タイプがあります。ファン設計では、常時回転型、温度依存で回転するもの(ファンカーブ)、また低負荷時にファンを停止する「ファンレス」や「セミファンレス」設計があり、静音性と冷却のバランスを選べます。
単一レール vs マルチレール
単一+12Vレールは高出力の電力を制限なく1本で供給できるため、GPUやオーバークロック向けに有利です。一方、マルチレールは各レールごとにOCPを設定しているため安全性(短絡や過負荷が特定回路に波及しにくい)が利点です。近年は内部的に複数の出力を持ちながら、ユーザからはシングルレールとして扱う設計もあります。
電源ユニットの選び方
- 必要ワット数の見積り:CPUとGPUが最大消費する電力を中心に、ストレージや拡張カードの消費を合算して余裕を持って選びます。一般的にピークでなく持続負荷・将来的な拡張を見越して20〜40%の余裕を持たせると安全です。
- 信頼性の高いメーカーを選ぶ:電解コンデンサの品質(日本メーカー製など)、厳格な保護回路、実測レビューでの安定性が重要です。
- 効率(80 PLUS)と保証:効率の良いモデルは長期的な電気代と熱管理に有利。保証期間が長い製品はメーカーの自信の表れです。
- コネクタとケーブル長:ケースサイズやマザーボード配置に合うケーブル長・コネクタ数を確認しましょう。
- 将来性:拡張GPUや複数GPU、最新規格(PCIe新コネクタや高電力供給)への対応を考慮します。
メンテナンスと故障診断
電源は可動部(ファン)とコンデンサ劣化が主な寿命要因です。ホコリの蓄積は冷却性能低下と過熱を招くため定期的に掃除しましょう。電源故障時の典型的症状は「電源が入らない」「システムが不安定・再起動を繰り返す」「焦げ臭い・発煙」のような危険な兆候です。簡易診断には電源テスターや別の既知良好な電源での動作確認が有効ですが、内部高電圧部品を扱う際は感電や火災の危険があるため専門家に任せるのが安全です。
サーバ用途・冗長化・UPSとの連携
サーバや業務用機器では、ホットスワップ可能な冗長電源(デュアル/レッドンダントPSU)を用い、UPS(無停電電源装置)と組み合わせて停電や電力品質の問題からシステムを守ります。データセンターではPDU、電源分配や二重電源給電が一般的です。
まとめ
電源ユニットはPC全体の安定性・効率・安全性に直結する重要な部品です。単にワット数だけでなく、効率(80 PLUS)、保護機能、+12Vの供給能力、コネクタ互換性、メーカー品質、保証期間などを総合的に評価して選ぶことが重要です。定期的な清掃と適切な運用で寿命を延ばし、異常があれば早めに交換・点検することをおすすめします。
参考文献
- Power supply unit (computer) — Wikipedia
- Intel Desktop Platform Form Factors — Power Supply Design Guide (ATX関連資料/参考)
- 80 PLUS プログラム — 公式サイト
- ATX — Wikipedia(コネクタや規格の概要)
- Power factor correction — Wikipedia(PFCの説明)
- Tom's Hardware — PSU Buying Guide


