ロバート・アシュリー(Robert Ashley)— 語りと電子音で切り拓く現代音楽のテレビ・オペラ作曲家

ロバート・アシュリー(Robert Ashley) — プロフィール

ロバート・アシュリー(1930–2014)は、アメリカの作曲家・オペラ作家で、20世紀後半以降の実験音楽/現代音楽の重要人物の一人です。アン・アーバー(ミシガン州)出身で、ONCEフェスティバルなどの前衛的活動を通じて名を上げ、その後「テレビ・オペラ」と称した独自の長篇作品群を発表しました。分かりやすい語り口と日常語を音楽の素材として用いる手法、語り(spoken voice)と電子音/最小限の伴奏を組み合わせた演奏様式で知られています。

経歴の概略

  • 1950–60年代:ミシガンなどの前衛的音楽コミュニティ(ONCEフェスティバル等)で活動を開始。
  • 1970年代以降:テレビを前提とした上演形式や、録音・映像を用いるオペラ作品を次々と制作。
  • 代表作「Perfect Lives」を筆頭に、語りを中心に据えた数々の長篇作品で高い評価を獲得。
  • レーベルや映像作家(例:Beryl Korot 等)と協働し、レコード/映像作品としても影響を残した。

作風と技法 — 何が新しいか

アシュリーの作風は「言語を音楽化する」ことにあります。ソプラノやアリアといった伝統的オペラの手法ではなく、日常語の抑揚、反復、間(ま)を精緻に組み立てて音楽的構造を作り上げます。彼が追求したポイントを整理すると次の通りです。

  • 語り(spoken word)を中心に据える:台詞や語りの音響的特性(ピッチ的変化、リズム、呼吸)を作曲素材とする。
  • ヴォーカルと電子音の融合:声にエフェクトや増幅を施し、シンセサイザーや電子処理と組み合わせることで独特のテクスチャを作る。
  • オペラの再定義:「オペラ=大劇場のためのもの」から逸脱し、テレビ・ラジオ・インスタレーションを舞台にした作品群を展開。
  • 物語性と日常性の共存:派手な叙事詩ではなく、地域社会や個人のささやかな出来事を通して普遍的テーマを浮かび上がらせる。

代表作・名盤(入門と深掘りのための推薦)

  • Perfect Lives — アシュリーを語る上で外せない作品群。7つのエピソードから成る「テレビ・オペラ」で、アメリカ中西部/南西部の市民群像を通し「日常のメタ物語」を描く。音楽・台本・映像が一体となった長篇として評価が高い。
  • Automatic Writing — 言葉の反復と変奏を用い、話すことと書くことのズレや生成プロセスを探る作品。アシュリーの語り芸術がよく分かる。
  • Atalanta (Acts of God) — 神話や偶然性、生と死の境界に向き合う大作。物語と声の操作が印象的。
  • その他の注目作:短い「voice pieces」や録音作品群、映像との協働作品も多数。多くはLovely Music等のレーベルから入手可能。

パフォーマンス/上演の特徴

アシュリーの上演はしばしば、語り手(あるいは語り手群)を中心に据え、楽器はサポート的に配置されます。視覚要素(映像や舞台装置)との結びつきが強く、テレビ放送や映像作品として制作されることで、劇場空間に依存しない「オペラ」のあり方を示しました。俳優的な語り手が指示通りに言葉を紡ぐのではなく、言葉そのものの音響性を演出する点が特徴的です。

ロバート・アシュリーの「魅力」を深掘りする

なぜ多くのリスナーや作曲家がアシュリーに惹かれるのか、いくつかの軸で解説します。

  • 日常語の音楽化:ニュースや会話、方言、話し言葉の曖昧さや躓きを意図的に取り込み、そこに音楽性を見いだす。結果として「親しみやすいのに実験的」という両義性が生まれる。
  • 語り手の存在感:語り手が登場人物であり語り手であるという二重性を持ち、個人の私事が普遍に転化されるプロセスを可視化する。
  • 形式と媒体の拡張:コンサートホールだけでないメディア(テレビ、レコード、インスタレーション)を前提に作曲し、オペラというジャンルを現代的に再定義した点。
  • ユーモアと冷徹さの併存:言葉の細部に宿るユーモアや皮肉、同時に生と死、日常の不条理に対する冷静な視線が作品を奥行きのあるものにしている。

影響と継承

アシュリーの方法論は、語りと音響の境界を曖昧にする多くの作家やパフォーマーに影響を与えました。ダウンタウン系の実験音楽やパフォーマンス・アート、現代オペラを更新しようとする若い作曲家や演出家にとって、彼の作品は重要な参照点となっています。また、メディア横断的な制作姿勢は現在のマルチメディア演劇やサウンドアートにも連なるものです。

聴き方ガイド — アシュリー作品への入り口

  • まずは「完璧(Perfect Lives)」を一通り視聴または視聴覚で体験する。物語の断片が断続的に現れる独特の構造に慣れることが重要。
  • 次に短い語り作品や「voice piece」を取り上げ、言語の抑揚や反復を細部まで聴く。ヘッドホンでの再生が効果的。
  • 可能なら映像付き上演やドキュメンタリー映像を見ると、視覚と音響の連関が理解しやすい。
  • 歌唱的な期待(アリアやメロディ)を外して、言葉の「韻律」や「間」に耳を傾けることがポイント。

注意点

アシュリーの作品は一見とっつきにくく感じられることが多いですが、焦らず反復して聴くことで構造や物語が立ち上がってきます。伝統的なオペラの「ドラマ主導」や「メロディ主導」とは異なる体験を楽しむつもりで臨むと良いでしょう。

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参考文献