This Heatを読み解く:Deceitと実験ロックの先駆者性を辿る聴き方ガイド

プロフィール — This Heatとは

This Heatは1970年代後半にロンドンで結成された実験的ロック/ポストパンク・バンドです。主要メンバーはチャールズ・ブレン(Charles Bullen)、チャールズ・ヘイワード(Charles Hayward)、ガレス・ウィリアムズ(Gareth Williams)の3人で、1976年頃から短い活動期間(主に1976〜1982年)でありながら、その独自の音世界は後のエクスペリメンタル・ロックやポストロック、ノイズ/アンビエント系のアーティストに大きな影響を与えました。

何が「This Heat」たらしめているか — 音楽的特徴と魅力

  • スタジオを拡張した「演奏」:録音機材(テープループ、カットアップ、編集作業)を楽器として扱う発想で、スタジオでの加工やミックスそのものが作曲手法になっている点。

  • ジャンル横断のサウンド:ロック/パンク的なエネルギーと、クラウトロック、ダブ的残響、電子的ノイズ、ミニマル/実験音楽の要素が混じり合い、既存ジャンルに収まりきらない音像を作り上げていること。

  • 緊張と解放のドラマ構築:リズムの反復と断絶、突発的なノイズや静寂の挿入によって高い緊張感を生み出し、作品全体で長い流れ(長尺のパートや編集で組み立てられた曲)を作ることが多い点。

  • 社会/政治的な視座:特に後期作では冷戦や核、監視社会といった時代性に対する反応が歌詞や作品のトーンに反映されており、サウンドの実験性と思想性が一体化していること。

  • 即興と構成の混淆:一見自由な即興の手触りを残しつつ、編集で大胆に構築された作り込みがあり、ライブ性とスタジオ作品の境界を曖昧にするアプローチ。

代表作とおすすめの聴きどころ

This Heatの正規スタジオ・アルバムは特に二作がよく評価されています。

  • This Heat(1979)
    バンドの初期集大成的なアルバムで、テープ操作と実験的手法が色濃く出た作品。断片的な音像、ループ、雑音を用いたサウンドスケープと、ロックの楽曲性が同居しており、聴き手を揺さぶる構成が特徴です。長尺の展開や編集による「組曲的」な流れに注目してください。

  • Deceit(1981)
    政治的テーマ(冷戦/核の脅威など)を直接的なモチーフに据え、より歌とメロディが押し出された一方で実験性を失わない代表作。バンドの表現が最も結実したアルバムと評されることが多く、緊張感のあるリズム、切れ味のあるアンサンブル、メッセージ性の強さが聴きどころです。代表曲としてしばしば挙げられる楽曲群が含まれ、入門にも最適です。

代表的な単曲やライヴ録音、編集を凝らしたコンピレーション作品も存在し、アルバム単位で聴くことで制作の流れや思想の深化がつかめます。

ライブとパフォーマンスの特徴

  • スタジオ作品の再現にとどまらない即興性:録音での編集やテープ操作をライヴでも即興的に再構築することで、同じ曲でも場によって異なる表情を見せることが多かった。

  • ミニマルなセットアップながら多彩な音響効果:ギター/シンセに限らず、ダイナミックなドラム操作やボイス処理で空間を作る演奏が印象的。

影響とその後の受容

This Heatは活動当時こそ大きな商業的成功を得たわけではありませんが、後の世代のミュージシャンや批評家に強い影響を与えました。ポストロック、実験的ポップ、ノイズ/アンビエントのシーンでは「スタジオを楽器化する」という発想を継承する動きが見られます。近年では再評価と再発により、若いリスナーやミュージシャンの間でも人気が高まり、ライナーやドキュメンタリーでその創造性が再確認されています。

聴きどころと入門ガイド

  • 初めて聴く人は、まずはDeceitを中心に聴くと「曲」と「メッセージ」の面から入りやすいです。そこからセルフタイトルの1979年作でテープワークや実験精神を追いかけると、全体像が見えてきます。

  • 短時間で判断せず、ひとつの曲を繰り返し聴いてテクスチャーや編集の変化を追うと、細部の工夫が浮かび上がります。音の“不在”や余白の使い方も重要な要素です。

  • ライヴ音源や編集コンピレーションを併せて聴くことで、スタジオでの構築と現場での即興の対比が楽しめます。

なぜ今聴くべきか

現代の音楽ジャンルが細分化し、多様な表現が交差する中で、This Heatの仕事は「ジャンルを超えて試すことの価値」を示しています。ポストパンクの直球だけでもない、ノイズやアンビエンス、編集技法を積極的に取り込む姿勢は、今日のプロデューサーやDIYミュージシャンにも多くの示唆を与えます。

聴く際の注意点(心構え)

  • 「わかりやすさ」をすぐに求めないこと。瞬時にキャッチーなメロディやサビが出てこないことがありますが、全体の空間/構造を味わうことがポイントです。

  • ヘッドフォンや良質なスピーカーで低音の残響やテープの質感を確認すると、作品の細部にある工夫がより明瞭になります。

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参考文献