This Heat 完全ガイド:プロフィール・音楽性・代表作・影響—ポストパンクと実験ロックの歴史を紐解く

This Heat — プロフィールと概要

This Heatは1970年代後半から1982年にかけて活動したイギリスの実験ロック・バンドです。メンバーはチャールズ・ブルレン(Charles Bullen)、チャールズ・ヘイワード(Charles Hayward)、ギャレス・ウィリアムズ(Gareth Williams)。パンクのDIY精神を受け継ぎつつ、テープ操作、コラージュ、即興演奏、ミニマリズム的な反復、雑音やドローンを組み合わせたサウンドで、当時のロックの文法を根本から問い直しました。

メンバーと役割

  • チャールズ・ブルレン(Charles Bullen) — ギター、ボーカル、サンプラーやテープ操作。冷徹で緻密な音作りを担った。
  • チャールズ・ヘイワード(Charles Hayward) — ドラム、パーカッション、ボーカル。複雑なリズムと自由奔放な即興性でバンドの心臓部を担った。
  • ギャレス・ウィリアムズ(Gareth Williams) — ベース、キーボード、ボーカル。実験的なテクスチャとメロディの要。後年に惜しくも他界。

音楽的特徴と制作手法

This Heatの魅力は「ロックの道具箱」を大胆に再定義した点にあります。主な特徴は以下の通りです。

  • テープコラージュとループ:リール・トゥ・リールやテープ・ループを用いた編集・重ね録りで、繰り返し/ズレ/分断された時間感覚を作り出します。
  • 即興性と構築性の共存:ライブ的な即興の瞬発力を、スタジオでの緻密な編集と併せて作品化することで独自のダイナミクスを生み出しました。
  • 異種素材の混交:ノイズ、環境音、電子音、従来のロック楽器が混ざり合い「場所」や「状況」を想起させるサウンドスケープを形成します。
  • 政治的/知的なテーマ:特にアルバム『Deceit』では冷戦と核の脅威を意識したリリックとコンセプトが前面に出ています。
  • 非定型的な楽曲構造:イントロ→Aメロ→サビ、というポップの定型に従わない展開。突然の崩壊や長い反復、断片の連結が多用されます。

代表作とおすすめトラック

代表的なフルアルバムは以下の2枚が特に重要です。

  • This Heat(セルフタイトル)(1979)— 初期の実験精神と緊張感が詰まった作品。生々しいテープワークと即興の衝動が共存します。おすすめトラック例:Horizontal Hold、Paper Hats。
  • Deceit(1981)— バンドの成熟と政治性が結実した傑作。冷戦期の不安を反復するサウンドと、明晰なソングライティングが同居しています。おすすめトラック例:A New Kind of Water、S.P.Q.R.、Not Waving。

EPやライブ/コンピレーションにも名曲・名演が多く、彼らの全貌を理解するにはスタジオ盤と併せてライブ録音や編集集も聴くとよいでしょう。

ライブとスタジオの違い

スタジオではテープ編集を駆使して細密な音像を構築するのに対し、ライブではより即興性が前面に出ます。テープ操作をリアルタイムで行ったり、機材トラブルさえ取り込んだカオス感を残すことも。ライブ音源はアグレッシブなエネルギーとスリリングな瞬間が豊富で、スタジオ盤とは別の魅力があります。

このバンドが残した影響とその重要性

  • ポストパンク/ポストロックへの架け橋:従来の歌ものロックの枠を破り、空間的・時間的な音響を重視する流れに影響を与えました。
  • サウンドコラージュと実験音楽の橋渡し:ノイズや電子音をロックの文脈に溶かし込んだ手法は、その後の実験バンドに受け継がれます。
  • DIYとアート志向の両立:独立した物作りと高い芸術志向を両立させた姿勢は、現代のインディー/アヴァンシーンにおける一つの手本です。

聴き方の提案(入門ガイド)

  • まずは『This Heat』→『Deceit』の順で通しで聴いてみてください。初期の実験性から後期の明確なメッセージ性へと変容する流れが掴めます。
  • 代表曲をシャッフル再生するのではなく、アルバムを通して聴いて「物語性」や「空間の変化」を味わってください。
  • ノートを取りながら聴く:場面転換やテクスチャの変化、感情の起伏をメモすると構造が見えてきます。
  • ライブ音源も聴く:即興性や生演奏ならではの荒々しいエネルギーが理解を深めます。

リスナーにとっての魅力(なぜ今も聴く価値があるのか)

This Heatの音楽は単なる過去の遺産ではなく、現在の音楽的課題(ジャンルのクロスオーバー、サウンドデザイン、政治的表現)に対する一つの回答を提示しています。緊張と解放、秩序と崩壊が同居するサウンドは現代でも新鮮で、発見が尽きません。

制作・演奏上の注目点(深掘り)

  • テープ編集は単なる効果ではなく、楽曲構造そのものの一部です。カッティングと接ぎ木の手法に注目すると、新しいフレーズが「編集」で生まれていることが分かります。
  • リズム面ではヘイワードの“断続的で重心のずれた”プレイが重要。単純に拍を刻むのではなく、ズレと強調で緊張を作ります。
  • ボーカルは必ずしも伝統的な「歌」を目指さず、音声をテクスチャとして使う場面が多い。言葉の断片が音響として機能する点に着目すると面白いです。

後継・関連プロジェクト

  • 解散後、チャールズ・ヘイワードはCamberwell Nowなどで活動し、This Heatでの実験性を発展させました。
  • メンバー各々がソロやコラボレーションを通じて実験音楽の現場で影響力を保ち続けています。

聴きどころのまとめ

  • テープループやコラージュによる時間操作
  • 政治的・社会的文脈を反映したテーマ性(特に『Deceit』)
  • 即興と編集の交錯による独特の緊張感
  • ジャンルを横断する音響設計が現在のリスナーにも響く普遍性

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参考文献