モダン・ジャズの詩人が紡ぐ七つの名旋律:ビル・エヴァンス人気曲深堀り

本コラムでは、モダン・ジャズの革新者ビル・エヴァンスが遺した代表的な7曲を、誕生背景から演奏スタイル、後世への影響まで詳しく解説します。印象派を思わせる独創的な和声感覚、トリオメンバーとの息の合ったインタープレイ、そして即興性あふれるソロ表現。それぞれの楽曲がどのようにして生まれ、ビル・エヴァンスの音楽観を体現しているのかを深く掘り下げ、その魅力を再確認します。

ビル・エヴァンスの概要

ビル・エヴァンス(William John Evans, 1929年8月16日–1980年9月15日)は、印象派音楽の影響を受けた新しいハーモニーをジャズに持ち込んだピアニストです。ルート音を省略してベースに委ねる独自のVoicingや、対話的インタープレイを導入することで、トリオ演奏における「三位一体」の表現を確立しました。1958年よりマイルス・デイヴィスのセクステットに参加し、『Kind of Blue』(1959年)録音にも大きく貢献。その後、自身のトリオを率い、スコット・ラファロ(b)&ポール・モチアン(ds)との編成で『Sunday at the Village Vanguard』『Waltz for Debby』(1961年)などの名演を残しました。

人気曲深堀り

1. Waltz for Debby

1956年のデビュー作『New Jazz Conceptions』で初録音されたワルツ。幼い姪デビーに捧げられた愛情あふれる旋律は、1961年のヴィレッジ・ヴァンガード・ライヴ盤で決定的な演奏として名を轟かせました。エヴァンスの透明感あるタッチと、ラファロの流麗なベースライン、モチアンの自由なリズム感が三位一体となり、ワルツの拍感を超越する会話的インタープレイを展開しています。

2. Peace Piece

1958年12月の『Everybody Digs Bill Evans』録音セッションの最後に即興で収録されたソロ・ピアノ作品。Cmaj7→G9sus4の二和音進行を基に瞑想的なムードを持続させるこの曲は、後のモーダル・ジャズにも多大な影響を与えました。映像作品や舞踊作品のサウンドトラックにも引用されるなど、エヴァンスの内省的な側面を象徴する一曲です。

3. Blue in Green

1959年のマイルス・デイヴィス『Kind of Blue』にEvans–Davis共作として収録されたバラード。4小節のイントロに続く10小節の循環形式という独創的構造を持ち、ピアノ、ベース、ドラムのトリオで時間感覚を伸縮させる即興演奏を展開します。エヴァンス自身が「円環形の10小節形式」と呼んだこの曲は、ジャズの新たな深みを提示しました。

4. My Foolish Heart

1949年発表のバラード・スタンダードを、1961年ヴィレッジ・ヴァンガードでのライヴ盤で取り上げた演奏が特に有名です。美しいメロディに対してエヴァンスは対位旋律的フィルを随所に散りばめ、ブルース的ニュアンスを感じさせるインタープレイを繰り広げました。静謐さと緊張感が絶妙に同居するライヴ演奏は、多くのリスナーを魅了し続けています。

5. Autumn Leaves

1945年に作曲されたジャズ・スタンダードを、1959年のスタジオ録音『Portrait in Jazz』で取り上げました。イントロの叙情的フレーズから一転、ラファロとモチアンが織りなす緊張感あるリズムセクションとともに展開されるインタープレイが、名演として高く評価されています。

6. Nardis

1958年にマイルス・デイヴィスがキャノンボール・アダレイのアルバム『Portrait of Cannonball』用に書いた作品ですが、エヴァンスが自らのトリオで頻繁に演奏し続けたことで、彼の代表曲となりました。フィリー・ジプシー音階を思わせる旋律とAABA形式の複雑なハーモニー進行を、流麗なタッチと深い思索性で紡ぎ出す演奏が魅力です。

7. Funkallero

1950年代半ばにエヴァンス自身が作曲したスウィング感あふれるジャズ・スタンダード。ブルーノート的なリズム感と、バド・パウエルを思わせる右手のブルージーなフレーズが特徴で、1971年の『The Bill Evans Album』で正式にリリースされました。エヴァンスのオリジナルが主役となる唯一のスタジオ盤であり、グラミー賞も受賞しています。

以上、七つの代表曲を通じてビル・エヴァンスが築いた和声的革新と、トリオ間の有機的なインタープレイをご紹介しました。深い詩情と即興の妙を兼ね備えた彼の演奏は、今なお世界中のジャズファンを魅了し続けています。


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