スピリチュアルジャズの先駆者──ファラオ・サンダース、その生涯と革新性

アーカンソー州リトルロックに生まれたファラオ・サンダース(本名フェレル・リー・サンダース)は、1940年10月13日生まれ、2022年9月24日にロサンゼルスで逝去したジャズ・サクソフォン奏者です。
彼はオーバーブローイング、ハーモニックおよびマルチフォニック奏法、いわゆる“シーツ・オブ・サウンド”を駆使し、フリージャズとスピリチュアルジャズの両分野で革新的な表現を切り拓きました。
1960年代半ばにはジョン・コルトレーンのグループに参加し、その後ソロ活動を通じて『Tauhid』(1967年)、『Karma』(1969年)、『Black Unity』(1971年)、『Thembi』(1971年)など数多くの名作をImpulse!レーベルから発表しました。
2016年にはアメリカ芸術省NEAのジャズマスター・フェローシップを受賞し、2021年にはエレクトロニック・アーティストのFloating Pointsおよびロンドン交響楽団とのコラボレーション作『Promises』をリリースして晩年に新境地を示しました。

生い立ちと音楽的背景

ファラオ・サンダースは1940年10月13日にリトルロックで、給食調理員の母と市役所職員の父のもとに一人っ子として生まれました。
幼少期には教会で賛美歌をクラリネットで演奏し、音楽の基礎を身につけました。
Scipio Jones高校在学中にテナーサクソフォンを手にし、1959年の卒業後はカリフォルニア州オークランドに移り、Oakland City Collegeで美術と音楽を学びながら活動を続けました。

キャリアの軌跡

ニューヨーク時代とサン・ラ

1962年、プロ活動を本格化させるためニューヨークに移住。当初はホームレス同然の状態でしたが、サン・ラのアルケストラに加わり、彼の支援で衣服と住居を得て、「Pharoah」の芸名を名乗るようになりました。

ジョン・コルトレーンとの共演

1965年にはジョン・コルトレーンのバンドに正式加入し、アルバム『Ascension』と『Meditations』に参加。長尺かつディソナントなソロで注目を集め、コルトレーン晩年の音楽を支えました。

Impulse!レーベル期

1966年からImpulse!と契約し、1967年にソロ2作目『Tauhid』を発表。チュニジア音楽や中東的リズムを取り入れた革新的な内容でした。
1969年5月には代表作『Karma』をリリースし、33分に及ぶ大曲「The Creator Has a Master Plan」でスピリチュアルジャズの頂点を示しました。
1971年には『Black Unity』と『Thembi』を含む一連の傑作を送り出し、自由奔放な即興演奏と深い祈りの精神を併せ持つ音楽を追求しました。

1970年代以降の探求

1970年代中盤以降はR&B、モーダル・ジャズ、ワールド・フュージョンなど多様なジャンルを横断する実験を展開。
1990年代にはモロッコでの録音やグナワ音楽とのコラボレーションなど、民族音楽の要素も積極的に取り入れました。

2000年代以降と最晩年

2003年には来日し、日本のバンドSleep Walkerと共演するなど、特に日本でも根強い人気を誇りました。
2016年にはNEAジャズマスター・フェローシップを受賞し、ワシントンDCでのトリビュートコンサートでも称賛を浴びました。
2021年にはFloating Pointsおよびロンドン交響楽団との共演作『Promises』を発表し、晩年にして新たな音楽性を提示しました。

音楽スタイルと革新

オーバーブローイングやマルチフォニック、そして“シーツ・オブ・サウンド”と呼ばれる重層的な奏法を駆使し、従来のジャズの枠を超えるサウンドを創出。
彼のスピリチュアルジャズは「カルマ」や「タウヒード」といった宗教的概念に根ざし、瞑想的かつトランス状態を誘う演奏美を確立。
その斬新な演奏スタイルは後続の多くのジャズ奏者に影響を与え、モダン・ジャズの進化に大きく貢献しました。

主な作品とディスコグラフィー

  • Tauhid(1967年):中東的リズムと自由奔放なサックスが融合した2作目
  • Karma(1969年):大曲「The Creator Has a Master Plan」を含むスピリチュアルジャズの金字塔
  • Black Unity(1971年):アフリカンリズムを取り入れた実験作
  • Thembi(1971年):エスニック色と即興性が光る傑作
  • Elevation(1974年):Impulse!期のライブアルバム
  • Promises(2021年):Floating Points & London Symphony Orchestraとのコラボで晩年に新境地を開拓
  • ライブ作を含むリーダー作は30枚以上におよび、多彩な才能を発揮し続けました

レガシーと評価

ファラオ・サンダースは革新的な奏法と深いスピリチュアリティにより、ジャズ界に不朽の足跡を残しました。
2016年のNEAジャズマスター受賞は、彼の功績が国を代表する文化遺産として認められた証です。
その精神的かつ実験的な音楽性は、現代のジャズシーンやエレクトロニック音楽にも影響を与え続けています。

ファラオ・サンダースは、生涯をかけてサックスの可能性を押し広げ、聴く者を内なる旅へといざなう音楽を追求しました。彼の作品は今なお新たな感動と発見を与え続けています。


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