Brij Bhushan Kabraの生涯と音楽的革新:スライドギターで切り開いたインド古典の新境地と『Call of the Valley』の名盤解説
プロフィール:Brij Bhushan Kabraとは
Brij Bhushan Kabra(ブリジ・ブーシャン・カブラ)は、インド古典音楽にスライド・ギター(ハワイアン・ギターや改造ギター)を本格的に導入し、その楽器表現を確立した先駆的音楽家です。20世紀半ばから後半にかけて活動し、特に1967年頃の名盤「Call of the Valley(谷の呼び声)」への参加で国際的な注目を集め、インド伝統音楽の新たな聴き方を多くのリスナーに提示しました。
初期の歩みと音楽的背景
もともと西洋系のギターやハワイアン奏法に親しんでいたカブラは、インド古典の微細な音階(スワラ)や装飾(ゴーカラン、ミーン、ガマク)をスライド奏法で再現することに強い関心を抱きました。既存の楽器だけでは表現が難しかった“歌うような”旋律線(ガヤキー・アーン)を、スライドの持続音と滑らかな連続音で表現することを追求し、楽器の改造や調弦の工夫を重ねていきます。
技術的・音響的イノベーション
- 楽器の改造:カブラは通常のギターやハワイアン・ギターに共鳴弦(シンパセティック・ストリング)や追加弦を取り付けるなど、インド古典のドローンや倍音構造を補強する改良を行いました。
- チューニングとオープン・チューニングの応用:ラーガに応じて開放弦を活かした調弦を採用し、サウンドの持続性と倍音感を強化しました。
- スライド奏法の浸透:金属やガラスのバー/スライドを用い、ビブラート、ミーン(滑り)、スライドによる連続的なピッチ変化を人声のように再現しました。
音楽的特徴と魅力
カブラの演奏は、次のような点で多くの聴衆と演奏家を惹きつけます。
- 歌心(ガヤキー)に根ざした表現:旋律の語り口が人の声に近く、歌を聴くようにじっくり味わえる。
- 音色の温度と持続感:スライド特有の連続した音の流れと弦の倍音が合わさり、瞑想的で温かみのあるサウンドを作る。
- 即興の深み:ラーガのアラープ(導入)や構築(ジョール、ジョハラ)をギターという楽器で違和感なく展開する能力。
- 融合の成功例:インド古典の厳格さとモダンな西洋弦楽器の感覚を橋渡しし、国内外の多様な聴衆に響く音楽を成立させた点。
代表作と入門おすすめ曲
最初に聴くべき作品として、やはり「Call of the Valley(谷の呼び声、1960年代)」は外せません。このアルバムはシャルマ(サントゥール)やチャウラシア(笛)らとの室内的対話を通じて、インド古典の風景や物語性を音楽で描き出します。カブラのギターはアルバム全体で歌うように登場し、楽器としての可能性を強く印象づけました。
- Call of the Valley(アルバム全編)— インド古典の情景描写と即興の妙を楽しめる入門盤。
- ソロ演奏やライブ録音 — アラープや細かな装飾をじっくり聴ける記録がおすすめ。
影響力とレガシー
カブラの仕事は、単に一人の奏者の業績に留まらず、スライド・ギターや改造弦楽器でインド古典を演奏する潮流を生み出しました。彼のアプローチは後のムハン・ヴィシュワ・モーハン・バット(モーハン・ヴィーナの開発者)や他のスライド奏者にも多大な影響を与え、インド音楽と世界音楽の接点を広げました。また、異ジャンルのミュージシャンやプロデューサーがインド古典を取り入れる際の参照点ともなっています。
聴き方のポイント(初心者〜中級者向け)
- まずはアルバム全体を通して聴く:曲と曲の間の流れやアルバムの物語性を感じることで、演奏の意図が見えてきます。
- アラープ部分に注目する:低音域での持続と微細なピッチ変化(ミーン)に耳を澄ませると、スライドの表現力がよく分かります。
- 楽器比較をしてみる:サントゥールやフルートとの音色対比を意識すると、カブラのギターが担う役割(メロディーの「歌」や装飾)が明確になります。
- 同じラーガの他演奏と聴き比べる:ボーカルやシタールなどとの比較は、ギターがどう“歌”を模倣・拡張しているかを理解するのに役立ちます。
後日談と評価
晩年まで演奏と教育を続けたカブラは、インド古典を新たな楽器で語ることの可能性を示した点で高く評価されています。批評家や共演者からは、その「声」のようなギター表現と音楽的誠実さが何度も称賛されました。彼の録音は、インド古典の入り口としても、またギター表現の教科書としても現在に残る価値があります。
まとめ
Brij Bhushan Kabraは、スライド・ギターを単なる模倣や仮設的な楽器としてではなく、インド古典音楽を語るための正統な表現手段にまで昇華させた数少ない奏者の一人です。彼の演奏には、「歌う心」と「器楽技法の洗練」が同居しており、リスナーはそこに普遍的な美しさと静かな驚きを見出すでしょう。初めて聴く人は、まず代表作を通してその音世界に浸ることをおすすめします。
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