E-ATX(拡張ATX)とは?寸法・互換性・ケース選びと活用ガイド
拡張ATX(E-ATX)とは
拡張ATX(Extended ATX、略してE-ATX)は、デスクトップ向けの標準的なATXフォームファクタよりも一回り大きいマザーボード規格の呼称です。主にハイエンドデスクトップ(HEDT)やワークステーション、サーバー寄りの用途で採用され、より多くの拡張スロットや大容量メモリスロット、より強力な電源フェーズやVRM配置などを実現しやすくするために横幅(および稀に縦寸法)が拡張されています。
定義と寸法(公式・非公式の差異)
重要なのは「E-ATX」はATX規格の公式拡張として単一の寸法がIntelによって厳密に定義されているわけではない、という点です。メーカーや用途によってE-ATXの呼称が採用される際の寸法やマウントホール位置が異なる場合があります。
- 一般的に多く見られる寸法例は約305 mm × 330 mm(12 × 13インチ)で、これはサーバー系のSSI EEB(Enterprise Electronics Bay)やSSI EATX系規格と同一視されることがあります。
- しかし一部メーカーは305 mm × 272 mm(12 × 10.7インチ)など異なる幅を「E-ATX」と称することもあります。
- 標準ATXは305 mm × 244 mm(12 × 9.6インチ)であり、E-ATXは主に「幅方向(横)が広い」ことが特徴です。
したがって、E-ATXマザーボードをケースに取り付ける際は、単に「E-ATX対応」と書かれているかだけでなく、実際の寸法やマウントホールの配置を確認することが必須です。
ATX・SSI系との違い(まとめ)
- ATX:Intelが定義したデスクトップ標準。拡張スロットは通常7スロット。
- E-ATX:消費者向けの拡張を意味する呼び名。横幅が広く、拡張スロットやメモリスロットを増やせる。寸法はメーカーによりバラつきあり。
- SSI EEB / SSI CEB:サーバー/ワークステーション向けに定義されたSSI(Server System Infrastructure)規格。EEBは305×330 mmで、デュアルCPUやサーバー用途に最適化されている。E-ATXと混同されることが多いが、SSIは明確な規格書が存在する。
利点(なぜE-ATXを選ぶのか)
- 拡張スロットの増加:PCIe x16スロットを複数搭載でき、マルチGPU構成や多数の拡張カードが必要な用途に向く。
- メモリスロットの増加:一般的にDIMMスロット数が多く、メモリ容量を大量に載せられる(ワークステーションやレンダリング用途で有利)。
- 電源フェーズやVRMの拡張余地:VRM回路や放熱面積を広く取れるため、オーバークロックや高TDP CPUに対して安定した電源供給が可能。
- 機器の機能統合:オンボードの高性能オーディオ、10GbE/25GbE等の高帯域インターフェイスを搭載しやすい。
欠点(注意すべきデメリット)
- ケース互換性:全てのPCケースがE-ATX対応ではない。対応していても実際の寸法によっては干渉が発生する。
- 重量とサイズ:マザーボードが大きくなるとケース内部の占有面積が増え、ドライブベイやケーブルの取り回しに影響する。
- コスト:E-ATXマザーボード本体が高価になりがち。またそれに対応するケースや冷却部材も高価格帯が多い。
ケース・互換性チェックの具体的ポイント
- ケース仕様を見る:メーカー表記の「E-ATX対応」の有無だけでなく、対応最大幅(例:最大305 mm、最大12.0インチなど)を確認する。
- マウントホールの位置確認:ケースのスタッド(スタンドオフ)位置がマザーボードの穴配置と合うかを確認する。E-ATX製品で独自の穴配置を採るものもある。
- I/Oシールドと背面パネル:I/Oの位置(特に上部寄りになる場合)でフロントドライブやラジエータと干渉しないかチェック。
- フロント周りの冷却ラジエータやドライブベイ:長尺のマザーボードは前面ラジエータや3.5インチドライブケージと干渉しやすい。
- 電源ケーブルの長さと取り回し:24ピンやCPU 8ピン、拡張用電源コネクタ(独自の4/8ピン追加など)に対応できる配線が必要。
実際の用途例と典型的な構成
- クリエイター/CG制作ワークステーション:大量のRAM、複数GPU、NVMeやSATAの多スロットを要求する構成でE-ATXが有利。
- ハイエンドゲーミングPC:拡張性を重視し、複数のPCIeカードや大型VRMを用いるビルドでE-ATXが選ばれる。
- ホームラボ・小規模サーバー:RAIDカードやネットワークカード、ストレージコントローラを多数載せる場合に便利。
購入時のチェックリスト(実用的アドバイス)
- マザーボードの実際の寸法を確認する(メーカーのdx × dy表記)。
- 購入予定のケースの「E-ATX対応サイズ」を確認し、寸法が合致するか実測する。
- 搭載予定のCPUクーラー(空冷/水冷ラジエータ)のクリアランスを確認する。
- 拡張カードや大型GPUの長さがケース内で収まるか確認する。
- 電源ユニットのコネクタ数やケーブル長が十分かを事前にチェックする。
- マザーボードは重くなるため、ケースの支持強度とネジ穴の強度を確認する(片持ちGPUによる負荷など)。
組み立て・冷却に関する注意点
E-ATXの恩恵を受けるためには、冷却設計が重要です。マザーボード上のVRMが大型で放熱する場合、十分なエアフローまたは専用のVRMヒートシンク用ファンを用意する必要があります。さらに、マザーボードがケースの前方まで広がると、フロントラジエータとマザーボードの部品が干渉することがあるため、ラジエータサイズ(240/360 mm等)の選定も事前に確認してください。
E-ATXが向く人・向かない人
- 向く人:大量メモリ・多数の拡張カードを必要とするプロユーザー、クリエイター、ワークステーション用途、将来的な拡張性を重視する技術系エンスージアスト。
- 向かない人:コンパクトなPCを望むユーザーや、コスト・省スペースを最優先する一般ゲーマーやライトユーザー。
まとめ
拡張ATX(E-ATX)は、高い拡張性と性能面での余裕を求める用途に適したマザーボード形状です。ただし「E-ATX」という名称は寸法やマウント仕様が完全に統一されているわけではないため、マザーボード・ケース・冷却・電源の各要素の物理的な互換性を慎重に確認する必要があります。設計や拡張性の利点を最大限に享受するためには、事前の寸法確認とパーツ選定が重要です。
参考文献
- ATX — Wikipedia
- Server System Infrastructure (SSI) — SSIForum(仕様一覧)
- ATX Specification — Intel
- What Is E-ATX? — MakeUseOf(解説記事)
- Motherboard Form Factors — TechSpot(解説)


