The Fall 入門ガイド:必聴盤と全アルバムの聴き方解説で紐解くポストパンクの巨人

The Fall を聴き始める前に — 短いイントロダクション

The Fall はマーク・E・スミス(Mark E. Smith)を中心に、1976年から2018年にかけて活動したイギリスのポストパンク/実験ロックの巨人です。膨大なリリースと頻繁なメンバーチェンジ、硬質で反復的なリズム、毒舌で断片的な歌詞、時にユーモアと怒りを同時に含むボーカル表現――これらが混然一体となった独特の音世界が魅力です。本コラムでは「入門編」「必聴盤」「深掘り盤」を織り交ぜて、各レコードごとに聴きどころと位置づけを詳しく解説します。

おすすめレコード目次

  • Live at the Witch Trials (1979)
  • Dragnet (1979)
  • Grotesque (After the Gramme) (1980)
  • Slates (1981)
  • Hex Enduction Hour (1982)
  • Perverted by Language (1983)
  • The Wonderful and Frightening World Of... (1984)
  • This Nation's Saving Grace (1985)
  • Extricate (1990)
  • The Unutterable (2000)

Live at the Witch Trials (1979)

ザ・フォールのデビュー・アルバム。粗さと直接性が前面に出た1枚で、ポストパンクとしての原石的魅力が詰まっています。DIY精神と怒り、そして断続的に現れるキャッチーさが同居しているため「ここから聴き始める」入門盤として機能します。

  • 代表曲(試聴推奨): "Bingo-Master's Break-Out!", "Repetition"
  • 聴きどころ: マーク・E・スミスの言葉の断片がいきなり飛び出す感覚、シンプルだが鋭いリズムとノイジーなギター。
  • 位置づけ: 生々しさを楽しみたい人、バンドの原点を理解したい人に。

Dragnet (1979)

同年リリースの2作目。デビューの荒々しさを保ちつつ、曲構成と演奏がよりタイトになってきた段階を示します。産業的なリズム、美学としての反復が顕著になります。

  • 代表曲: "How I Wrote 'Elastic Man'", "Two Steps Back"
  • 聴きどころ: 反復によるトランス感、マークの語りとリフの接触点。
  • 位置づけ: 早期フォールの“骨格”が固まり始めた作品。

Grotesque (After the Gramme) (1980)

初期の集大成的なアルバムで、ポストパンクの野心的側面がよく出ています。ノイズ、メロディ、実験性が混ざり合い、バンドがいかに多面的かを示す1枚です。

  • 代表曲: "Pay Your Rates", "New Face in Hell"
  • 聴きどころ: 歌詞の皮肉さ、曲によって変わるテンポ感。曲間の緊張感が秀逸。
  • 位置づけ: 初期の完成形を知るための重要作。

Slates (1981)

短めのミニLPながら、実験的で文学的な側面を強く打ち出した作品。短い曲が並び、断片的なフレーズとリズムが次々と現れるため、聴くたびに新しい発見があります。

  • 代表曲: "Slates, Slags, etc.", "Fit and Working Again"
  • 聴きどころ: 言葉遊び的な歌詞、編集感覚に近い曲並び。集中して聴くと中毒性があります。
  • 位置づけ: 実験志向の強い中短編集的な1枚。

Hex Enduction Hour (1982)

荒涼とした空気感と冷たい感性が色濃く出た傑作。フォールの“暗黒面”が前面に出ており、演奏も歌もほとんどが直線的で容赦がない。名盤として頻繁に挙げられる作品です。

  • 代表曲: "The Classical", "Hip Priest"
  • 聴きどころ: 単純なリフから生まれる圧迫感、マークの低く切りつけるような語り口。曲の終わらせ方がしばしば不穏。
  • 位置づけ: ダークかつアングラ寄りなフォールを体現する名盤。

Perverted by Language (1983)

サウンド的により実験的な方向へ進んだ作品。ギターのテクスチャやノイズ処理が多彩で、歌詞もより難解に。バンドが音響的な探求を深めている段階を示します。

  • 代表曲: "Eat Y'self Fitter", "Blindness"
  • 聴きどころ: ノイジーな処理と詩的断片の交錯。意図的に“聴きづらく”する演出があるので、繰り返し聴くことで味が出ます。
  • 位置づけ: 深堀り派向け、アヴァンギャルドな側面を楽しみたい人に。

The Wonderful and Frightening World Of... (1984)

中期の転機を示すアルバム。ポップさと不穏さが同居し、Brix Smith の影響も感じられる時期。メロディやアレンジに豊かさが出て、フォールの表現幅が広がります。

  • 代表曲: "Grift-Rite", "Lay of the Land"
  • 聴きどころ: ポップなフックと異様な歌詞表現の組合せ。より“聴きやすい”フォールの顔が見える。
  • 位置づけ: 中期フォールを代表する、入門者にも聴きやすい1枚。

This Nation's Saving Grace (1985)

多くの評論家がフォールの最高傑作の一つに挙げるアルバム。緊張感と完成度が高く、政治的な視点や風刺も含んだ濃密な内容です。演奏力と曲構成がかつてないほど噛み合っています。

  • 代表曲: "Mr. Pharmacist", "Bombast"
  • 聴きどころ: ハードなリズム隊による推進力と、マークの断定的な語り。それが曲として完結している点が素晴らしい。
  • 位置づけ: フォール入門における“到達点”的アルバム。ストイックでありながら曲の妙が際立つ。

Extricate (1990)

90年代初頭の作品で、商業的な要素が若干持ち込まれた時期の1枚。ポップな要素とフォールらしい反復性が混ざり、メロディアスなフックが立つ曲も増えています。

  • 代表曲: "Hit the North, Part 1"(過去曲の再編も含む)、"Edinburgh Man"
  • 聴きどころ: 過去の荒削りな美学と、より練られた曲構成の折衷。メンバー交代が音に反映されています。
  • 位置づけ: 中期以降のフォールを俯瞰するうえで重要な過渡期の作品。

The Unutterable (2000)

2000年リリースの作品で、長年のキャリアの中でも高評価を受けた1枚。エレクトロニクスやループを大胆に取り入れつつ、マークの独特な語りは健在。古参ファンと新規リスナーの橋渡しをする作風です。

  • 代表曲: "The Joke", "Cyber Insekt"
  • 聴きどころ: ビート志向のトラックとカットアップ的なヴォーカル。落ち着いたが鋭い視点が通底。
  • 位置づけ: 2000年代のフォールを知る上での要点。実験と完成度のバランスが良い。

聴き方ガイド — どう回すとより楽しめるか

  • 時代順に聴く: バンドの変化(荒削り→タイト→実験→ポップ寄り→再実験)を体感できます。
  • 「曲」で入る: まずは代表曲を1〜2曲聴いて、気に入ったアルバムを丸ごと掘るのが効率的です。特に This Nation's Saving Grace や Hex Enduction Hour はアルバム通しての魅力が濃い。
  • 歌詞を追う: マークの発話は断片的で脈絡が飛びますが、繰り返し聴くことでテーマや反復表現の面白さが浮かび上がります。
  • メンバー変遷を知る: Craig Scanlon、Steve Hanley、Brix Smith などの在籍期によってサウンドの色合いが変わります。気になる時代のラインナップをチェックすると発見があります。

聴き比べ/エディションの楽しみ方(簡単に)

The Fall はシングル、BBCセッション、ライヴ、別テイクが膨大に存在します。同じ曲でも別ヴァージョンで表情が変わることが多いので、お気に入りの曲が見つかったらシングルやコンピレーションも追うと面白いです(詳しい音源収集はファンサイトやディスコグラフィを参照してください)。

まとめ — なぜ The Fall を聴くべきか

The Fall は「聴き手に考えさせる」タイプのバンドです。ポップなフックだけでなく、言語的実験、繰り返しの美学、そして時に不快と紙一重の魅力を持つ音像が揃っています。入門盤から名盤、深掘り盤へと進むことで、マーク・E・スミス率いる独特の芸術性が立体的に見えてきます。気負わず、小さなフレーズやリフの反復に身を任せてみてください。新しい発見が必ずあります。

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参考文献