ウィーン少年合唱団の人気曲総覧:宗教曲からクリスマスキャロル、クロスオーバーまで

ウィーン少年合唱団(Wiener Sängerknaben)は、1924年に再編成され現在に至るまで、世界各地でおよそ300回もの演奏会を行い、年間約50万人の聴衆を魅了する世界的に著名な少年合唱団です。彼らのレパートリーは中世から現代作品に至るまで広範であり、特に宗教曲やクリスマスキャロル、オーストリア伝統曲、さらにはポップス・クロスオーバー曲まで含まれています。本コラムでは、ウィーン少年合唱団の人気曲を以下のカテゴリに分けて詳述し、各曲の背景や合唱団による演奏の特徴、代表的な録音などを解説します。

1. 宗教曲・聖歌

ウィーン少年合唱団の基盤を支えるのが、長い歴史を持つ宗教曲や聖歌の数々です。彼らは教会音楽の伝統を受け継ぎながら、清澄な少年合唱の響きで古典的な宗教作品を現代に甦らせています。

1.1 「Jesu, Joy of Man’s Desiring」

この楽曲は、ヨハン・セバスティアン・バッハのカンタータ第147番〈Herz und Mund und Tat und Leben〉BWV147の第10曲(「Jesus bleibet meine Freude」)を編曲したものであり、バッハ自身が独立してオーケストラと合唱のために編曲しています。ウィーン少年合唱団は、この「Jesu, Joy of Man’s Desiring」を伝統的な合唱版で演奏し、その透明感あるソプラノとアルトのハーモニーによって、多くのコンサートや録音で高い評価を得ています。特に、1998年にリリースされたベストアルバム『Angelic Voices: The Best of the Vienna Boys' Choir』には、この曲が収録されており、多くのファンにとって代表的な名演として知られています。

1.2 「Ave Maria」

「Ave Maria」は、カトリックにおける伝統的な賛美歌であり、フランツ・シューベルト版やヨハネス・ブラームス版、さらにカッリオ・モンテヴェルディなどによる多様な編曲が存在します。ウィーン少年合唱団は特にシューベルトの「Ave Maria」(D.839)を得意とし、1998年にリリースされた同名アルバム『Ave Maria』では、合唱団単独の演奏に加え、プラシド・ドミンゴとの共演でも注目を浴びました。

1.3 「Salve Regina」

「Salve Regina」は、中世から伝承されるラテン語の聖母賛歌で、フランツ・シューベルト(D.386)が編曲したものが特に有名です。ウィーン少年合唱団は、Peter Marschik指揮のもと1994年に録音されたアルバム『Sacred Songs』などで「Salve Regina in B-Flat Major, D.386」を演奏しており、その繊細かつ壮大な響きが高く評価されています。同アルバムには、シューベルトのほかにもメンデルスゾーンやハイドン、フェルディナント・ジルヒャーなどの宗教作品が収録されており、ウィーン少年合唱団の多彩なレパートリーを体感できます。

1.4 「Agnus Dei」

「Agnus Dei」は、典礼ミサ曲の定番的な楽章であり、モーツァルトの『Missa solemnis in C Minor, K.139』(通称「ワイゼンハウス・ミサ」)やバッハの『ミサ曲第17番』など、多くの作曲家によって書かれています。ウィーン少年合唱団は特にモーツァルト版の「Agnus Dei」をコンサートや『Sacred Songs』アルバムで披露しており、少年たちの澄み切った声が厳粛な雰囲気を一層引き立てます。録音においては、すべてのパートがすっきりと混じり合う音響設計が評価されており、宗教曲ファンからも根強い支持を得ています。

2. クリスマスキャロル

ウィーン少年合唱団は、クリスマスシーズンになると世界各地でツアーを行い、伝統的なキャロルを澄んだ声で歌い上げることで知られています。以下では、代表的なクリスマスキャロルの解説を行います。

2.1 「Stille Nacht(Silent Night)」

「Stille Nacht」は、1818年12月24日にヨーゼフ・モール(作詞)とフランツ・グルーバー(作曲)によってオーストリア・オーベンドルフ村で初演された世界的に有名なクリスマスキャロルです。ウィーン少年合唱団は、この「Stille Nacht」を毎年のクリスマスコンサートのクライマックスとして定番化しており、特にカーネギーホール公演(12月8日開催)では大きな盛り上がりを見せます。彼らの演奏は、もともとギター伴奏でシンプルに歌われた原曲を、現在ではオーケストラとの共演によって荘厳に仕上げるスタイルが定着しており、静謐な雰囲気が聴衆に深い感動を与えます。

2.2 「Adeste Fideles(O Come, All Ye Faithful)」

「Adeste Fideles」は、18世紀にジョン・フランシス・ウェイドがラテン語で作曲したとされる伝統的なクリスマス賛美歌です。ウィーン少年合唱団は、Gerald Wirth指揮のもと、2015年リリースのアルバム『Christmas with Vienna Boys' Choir』でこの「Adeste Fideles」を録音し、洗練された合唱とオーケストラ伴奏によって世界中に広く紹介されました。英語またはラテン語で歌唱されることが多く、少年たちの澄んだソプラノが高らかに旋律を奏でることで、礼拝やコンサートでの定番曲として定着しています。

2.3 「O Holy Night(Cantique de Noël)」

フランスのアドルフ・アダン(作曲)およびプレイス・グリュード伯爵(作詞)によるクリスマスキャロル「O Holy Night」は、原題「Minuit, chrétiens」として1855年に発表され、その後英語版が広まりました。ウィーン少年合唱団は、「O Holy Night」をクリスマスアルバム『Christmas with the Vienna Boys' Choir』(1994年)などで演奏し、その力強いメロディと澄み渡る少年合唱のコントラストが印象的です。特にアメリカ・カーネギーホール公演では、合唱団単独による無伴奏版やオーケストラ伴奏版の両方が披露され、聴衆から喝采を浴びています。

3. オーストリア・ドイツ語圏の伝統曲

ウィーン少年合唱団は、オーストリアやドイツ語圏に古くから伝わる民謡や歌曲を合唱アレンジで演奏し、ウィーンの音楽文化を世界に紹介しています。

3.1 「An der schönen blauen Donau(美しき青きドナウ)」ワルツ合唱版

ヨハン・シュトラウス2世が1866年に作曲したワルツ曲「An der schönen blauen Donau」は、本来はオーケストラ曲ですが、後に合唱アレンジも生まれました。ウィーン少年合唱団は、2002年リリースのアルバム『An der schönen blauen Donau: The Best of the Vienna Choir Boys』でこのワルツ合唱版を録音し、合唱パートが旋律を歌い上げる独特のスタイルを披露しています。合唱団の高音部がワルツの華やかな旋律を担当し、オーケストラと一体となった演奏は、聴衆にウィーン情緒を強く印象づけます。

3.2 「Heidenröslein(野ばら)」

ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテの詩に基づき、シューベルト(D.257)やフェルディナント・ジルヒャーなどが作曲した「Heidenröslein」は、ドイツ語圏の代表的な民謡・歌曲として知られます。ウィーン少年合唱団は、シューベルト版を合唱アレンジし、アルバム『Sacred Songs』やコンサートで披露しました。少年たちの透明感ある声がゲーテの叙情的な詩情と見事に調和し、聴衆に懐かしさと清涼感を与えています。

3.3 「Der Lindenbaum(菩提樹)」〈冬の旅〉より

フランツ・シューベルトの歌曲集『冬の旅』(D.911)の中の一曲「Der Lindenbaum」は、郷愁を誘う美しいメロディが特徴です。ウィーン少年合唱団は、合唱用に編曲されたバージョンをコンサートや録音で度々取り上げており、アルバム『The Best of the Vienna Choir Boys』などにも収録されています。少年たちの澄んだハーモニーがシューベルトの叙情的世界を豊かに表現し、多くのリスナーから評価を得ています。

3.4 「Wo die Zitronen blühn(レモンの花咲くところに)」

ヨハン・シュトラウス2世が南イタリアを題材に作曲し、イタリア語では「Nessun maggior dolore」として知られるこの曲は、もともと歌曲として作られた後、合唱アレンジが生まれました。ウィーン少年合唱団は、1998年頃よりコンサートやアルバム『International Folk Songs: Around the World With the Vienna Boys' Choir』でこの曲を披露し、イタリア語またはドイツ語の合唱バージョンによって南欧の明るく温かな雰囲気を表現しています。

4. ポップス・クロスオーバー曲

近年、ウィーン少年合唱団は伝統的な宗教曲や古典曲のみならず、ポップスや映画音楽、アニメソングを合唱アレンジで演奏することでも注目を集めています。

4.1 「Doraemon no Uta(ドラえもんのうた)」

日本の国民的アニメ『ドラえもん』の主題歌「Doraemon no Uta」は、1969年に初放送されたオリジナル版から現代まで幅広い人気を誇ります。ウィーン少年合唱団は、2000年公開の映画『ドラえもん のび太と太陽王伝説』のサウンドトラックにおいて、合唱版「Doraemon no Uta」を録音し、世界的に注目を浴びました。少年たちの澄んだ発声によって日本のアニメソングがクラシック合唱と見事に調和し、合唱ファンのみならずアニメファンからも高い評価を得ています。

4.2 「Wellerman」

「Wellerman」は19世紀のニュージーランドの漁師歌として伝わるフォークソングで、TikTokを契機に世界的に再ブームを巻き起こしました。ウィーン少年合唱団は、この「Wellerman」を合唱アレンジで演奏し、SNSやYouTubeを通じて若年層のリスナー層から注目を集めました。伝統的な男性コーラス風のアレンジではなく、少年合唱ならではの軽やかさと透明感を活かし、フォークソングに新たな息吹を吹き込みました。

5. 歴史的背景および合唱団の概要

ウィーン少年合唱団は、その歴史を辿ると15世紀末まで遡ります。神聖ローマ皇帝マクシミリアン1世の指示(1498年6月30日)により、聖職者のための少年合唱団が公式に組織されたことが起源とされ、その後ハイドン兄弟やシューベルトといった著名作曲家とも関わってきました。1920年のオーストリア帝国崩壊後に一度解散したものの、1924年に再結成され、現在ではパレ・オーガルテン(Palais Augarten)を拠点に、ボーディングスクールと中等教育を併設した形で運営されています。1962年にはディズニー制作の映画『Almost Angels』(邦題『大空に賛歌を』)にも登場し、グローバルな認知度を一層高めました。

合唱団は年間約300公演を行い、およそ100人の少年たち(9歳から14歳)が4つのツアーグループ(ブルックナー、ハイドン、モーツァルト、シューベルト)に分かれて世界各地を巡演します。歴史的な教会堂からコンサートホール、さらにはテレビ番組や映画のサウンドトラックまで幅広く活躍しており、その純粋かつ整然としたハーモニーは、時代やジャンルを超えて多くの聴衆を魅了し続けています。

6. まとめ

以上、ウィーン少年合唱団の人気曲を宗教曲、クリスマスキャロル、オーストリア伝統曲、そしてポップス・クロスオーバー曲に分類し、各曲の背景と合唱団による演奏の特徴を詳しく解説しました。ウィーン少年合唱団は、古典的な聖歌や伝統曲のみならず、アニメソングやフォークソングまで幅広いレパートリーを持つことで知られ、その澄んだ少年合唱の響きによって、楽曲の魅力を再発見させてくれます。今後も彼らの多彩な演奏を通じて、音楽の深さと感動を味わっていただければ幸いです。


参考文献

  1. https://en.wikipedia.org/wiki/Vienna_Boys%27_Choir

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